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 かすがに守られるように抱き締められて、先程までの涙は引っ込んでいるようだったが、泣いていたと誰が見てもわかるほどの名残を留めた縁の赤い目でこちらを見ている。  何がどうして、そんな誤解を与えてしまったのか……  俺は常にはるひに好意を見せていたと思うし、かすがとは必要以上に距離を詰めたことはない。  確かに尾を梳かせたことはあったが、あれもはるひとの婚姻に向けてのための避けられない出来事だった。  だから、それはすべて誤解であって、俺の心は常にはるひにしか向いていない。 「俺はずっと、そう言っているだろう?」 「  い、言って  ないです」  震えた声が小さく零れる。 「家族になりたいときちんと言った!」 「それはっ!家族になりたいって言うのは、かすが兄さんとの結婚の許しを聞きに来たんだとばかり……」  再び泣きそうになりながら首を振るはるひをこれ以上追い詰めることができず、俺の言葉の選びが悪かったのだと素直に認めるべきだと項垂れた。 「……あの時は、はるひの中に子がいるかいないかはっきりしなかったから…………子が成していたのなら、その子への責任も取りたかった。だから家族と言ったんだが、それが悪かったんだな」  素直に自分の非を飲み込んでしまうとますます体から力が抜けてしまうようで、もう尾を振る力も出ない気分だ。  つまり、俺の不甲斐なさが無ければ、はるひは一年前にこの城を出なかったし、ロカシ・テリオドスの子を孕むこともなかったと言う話で……  悔しい気はするが、それでもはるひのことは愛おしいし、こうやって抱き続けるのが苦にならないほどにはヒロに対しては特別な感情を抱いている。  この小さな生き物は、とっくに俺の中に根を張ってしまっていて、もう枯れることはないだろう。  口に突っ込んだ涎だらけの手で頬を張られても、気にはならないし、むしろくすぐったく思えてしまう。  はるひ自身があの赤狐とのことを納得していて、俺のことを僅かでも憎く思っていないのであれば、俺は何をしてももう一度触れる許しが欲しい。 「お前に誤解させた俺に非がある、その謝罪を……生涯をかけて償わせてくれないか?」  精一杯の想いを込めて言ってみたつもりだったが、はるひの反応は俺が想像していたよりもはるかに希薄で、聞いていたのかすら怪しく思えるほどだった。  また、誤解させるような物言いだったのか?  それとも、言葉が遠すぎたのだろうか?  いや、むしろ直接的過ぎて呆れられたのかもしれない……

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