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どう言う言葉を言えばいいのか考えがまとまらずに焦っていると、はるひを抱き締めていたかすがが腕を解いてはるひを押し出した。
よろけるように俺の方へと歩き……そして竦んだ様は喜んでいるようには見えず、それが答えなのかもしれない と思うと寂しさが募るばかりだ。
「はるひ、俺はお前達を一生守る、何があっても、どんなことをしても だ。そちらの世界では英雄とはそう言うものだと幼い頃教えてくれたな?」
「……はい」
「俺ははるひのただ一人の英雄でありたい」
その手を取ってみると小刻みに震えていて、拒絶の言葉を覚悟しなくてはならなかった。
「オレのヒーローは……昔から、クラド様だけです」
頬を転がった涙が床に落ちて砕けるよりも先にはるひを掴んで引き寄せる、腕の中のヒロが驚いてくしゃりと顔を歪めたがそれに構っていられる余裕はない。
腕の中にすっぽりと収まる小さな存在二つの温もりに、言葉が出ずに頬を摺り寄せる。
二人のふわふわとした髪が柔らかくて心地よくて……
「……兄上、よろしいでしょうか?」
「よろしいも何も、お前の婚姻許可をどうこうした覚えがない。好きにしろ」
「ありがとうございます!」
きょとんとこちらを見上げるヒロの頭に口付けをして擦り寄ると、くすぐったいとでも言いたげな声が上がる。
そんなヒロを見て、はるひが何かを決意したかのようにぐっと唇を引き結んだのが見えた。
白い泡が、注意しないとわからない程度だが仄かに薄紅に染まるのがわかった。
はるひの手で体中を擦られて、ヒロは小さな拳を振り回して嬉しそうに声を上げている。
「手伝おう」
「いえ……もう終わりますから」
そう言ってはるひがヒロに湯をかけ始めると、後ろから呑気な声が「この黄色い液体は媒染剤なんですね」と告げて来た。
聞き慣れない言葉に振り向き、声と同じくひどく呑気な雰囲気で椅子に腰かけるスティオンに首を傾げて見せると、やはりどう言う造りになっているのか不思議にさせる胸の谷間から小さな小瓶を取り出す。
「賢者の石を使うと血色がよくなると言う話の真実は、ほんのり体毛が赤色に染まるからですね?」
「そんなことになったら大事じゃないのか?」
「だからほんのり何ですって、ナチュラルメイクのチークよりももっと薄い感じですかね?」
「ナチュ……?」
問い直そうとした俺に、面倒そうにしっしっと手を振り、スティオンは小さな小瓶を振る。
「石鹸単品を使えばそれくらいなんですが、これを使うと毛や爪がこんな風になるんですよ?」
俺からしたらする必要性がわからないのだが、スティオンは赤い爪先をひらひらと蝶のように動かし、透かすようにして全体を眺めて満足そうにしている。
爪が赤だろうが黄色だろうが、どうでもいいだろうに……
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