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2−10
────キィィィィィ
思わず耳を塞ぎたくなるような金属音に沿って、俺の持つ長剣の刃が細くへつられていく。
銀の細いささくれが風に吹かれて揺れるのを信じられない面持ちで見ていると、母の持つ細身のレイピアが撓って銀の軌跡を空に描いた。
目で見て反応するなんて芸当はできなかった。ただ本能の訴えるまま、今までの経験で培ったものだけを頼りに逃げ惑うと、尾の先をチ と剣先が掠める。
「目を背けてはなりません」
「っ っ 」
そんなことになれば一瞬で首と胴が離れることになるのは百も承知だ。
草地にヒールで、足に絡まるだろうドレス姿だと言うのにその動きは俺より幾分もなめらかだし早い。
ギィ ギィ と、衝撃が来るたびに長剣があり得ない音を、甲高く悲鳴のように上げ続ける。
「正面から受けるのでは疲れてしまいます、逸らし、流すように、最小限の力で、最大数の敵と向かい合えるように」
そう言いながら汗一つかかずに涼やかにこちらに迫ってくる姿は、傍目から見ればただ歩み寄っているだけにしか見えないだろう、けれど先程からチカチカと光が躍り、その度に腕が悲鳴を上げそうなほどの衝撃が体を震わせる。
慢心していたわけではないと言い訳をするけれど、それでもゴトゥスでの戦いを生き延びて、そこで少なからずの経験を積み称賛を得ていたはずなのに……
全身を針で刺されたような圧に今にも膝から力が抜けてしまいそうだった。
あの戦いですら感じたことのない心の底が抜けるような恐怖に、はるひの顔を思い浮かべながら必死になって立ち向かう、そんな状況でも救いなのはこれが母の全力ではない と言う点だ。
「 っ」
剣を薙がれて正面が大きく開いてしまったのを見て、母の歩みが止まった。
「 気が散っておられますか?」
腕に来る重みが凪ぎ、母は細い首を少しだけ傾げてそう尋ねてくる。
「それとも、やはりこのような武器では手応えがございませんか?」
「!? いえっそんなことはっ」
そう返すと少し目を眇めるようにして自らの手の中のレイピアを眺め、ほんのわずかに途方に暮れたような表情を零した。
普段表情に乏しい母からしてみれば大きな変化ではあったけれど、それでもやり取りをしている相手には物足りなさを覚えさせる表情だ。
「少しお時間を頂けますか?大剣に替えて参ります」
「いやっ本当にっ」
随分と刃が細くなってしまった長剣を見てしまうと、血の気が下がるのを止められなかった。
この状態で本来の母の得物である大剣を振り回されたらと思うと……
「それに、稽古より母上の体の方が心配です」
「お心遣い痛み入ります」
深く頭を下げられてしまうと距離を取るように突き放されたようで、途切れてしまった会話を繋げることができずにそのまま長剣を鞘へと戻す。
そうすると母もレイピアを鞘へと戻し、深くもう一度頭を下げた。
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