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 縋るように窓の外のクラドを見るも、今やっと丘を登り始めたのだから稽古が終わる時間なんて見当もつかなかった。 「はるひも、ミロク同様に貴族の会話様式は苦手なのか」 「苦手……です、触れる機会がなかったので」  かすが兄さんのおまけとしてここに来たオレには貴族的な身分は何もなくて、社交界に出れるわけでもなく、だからと言って市井に出ることも叶わずで、城の一角だけが生活の場所だった。  そこにはクラドやかすが兄さん、それに侍女達もいたけれど貴族の身分の人間が立ち入ってくることはなかった。  だから、貴族然とした会話も振る舞いも、学んではいたけれど実践したことはい。 「そう言うものからはかすがが徹底的に切り離していたからな。下手な王族の姫よりも箱入りなのだったな」 「いえっ そんなことは……」  ずっと城にいたのならばそうかもしれなかったけれど、一年近く外で揉まれてしまえば箱入りなんて言葉が相応しいとは思えない。 「だから、大公家を興す意味も分からない と」 「……恥ずかしながら」  そう言って膝の上でぎゅっと手を握る。  庶民の生活に詳しくはなったけれど、そう言ったことは庶民では分からない。  クラドの隣で生きて行くのであれば、もう少しそう言ったことを学んでおくべきだったのだと、今更思っても遅かった。 「大公家は王籍を抜けた者が興す、代々受け継がれる爵位ではなく興した本人が没すればそこで終わりの身分だ」 「はい」  それならば、クラドにはヒロがいるのだし王籍を抜けてまで興す意味が分からない。 「王族には義務がある。この地を治めることと血の継続だ、これはかつて受肉された神の血を受け継ぐための王族の最重要の義務となる」  突然飛んだような話だったけれど言葉を挟める度胸もなくただ「はい」と繰り返す。 「故に王族は子を成さなければならない」  今度は「はい」と言葉が出ずに頷くしかできなかった。  陛下の言うことをそのまま取るならば、かすが兄さん達夫婦は未だ子供が出来ず、その義務を果たしていないことになる。  かすが兄さんがオレに構いすぎているから、自分達の子供を持つことができないと言われた言葉を思い出してみぞおちがひやりと冷えたような気がした。 「かつて魔人の王宮襲来で王族の血を引く者の数は激減した」 「はい、聞いております」 「我が聖シルル王国の王は王家の血筋にのみ生まれる神の姿を授かった者がなる習わしだ」  さすがにそれは知っている、だから陛下もそうだし王もそうだ。

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