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 この世界に血筋も歴史もないオレには、かつての苗字を名乗ることも許されていなかったから、かすが兄さんに引っ付いてやって来ただけのオレは、本当に何も持っていない…… 「洗礼名も母の名も、王族ですらないことがどう言うことかわかるか?」 「…………」  きっと、異界から来たオレにはそれがどれほど重大なことかは一生かかっても本質的な部分では理解はしきれないのだと思う。  けれど、それがヒロのこれからの人生にとって負担となるのだけははっきりと理解できた。 「ヒロはクルオスの次の王だ、なのにその名が、王族の血を引いてはいるが継げる名が何もない、洗礼を受けることすらできない庶民から生まれた私生児だと、表してしまう」 「    」 「名がないと言うのは連なりがないと言うことだ、つまりそれは後ろ盾となる者が希薄だと知らしめる」  汗でぐっしょりの手から視線を移していいのか、何らかの言葉を上げればいいのか、それすら分からなかった。 「我が国は王位の継承が他国に比べてはっきりとしている。コリン=ボサ神がお選びになられるからだ、そのために他国の王位継承のような血なまぐさい、血で血を洗うようなこともない。だがそれと政治を担う者達が一枚岩か、貴族共に支持されるかと言うのは別の問題だ」 「それは……」 「幾ら賢王足り得ようとも、支持がないと言うのは棘の道に他ならない。棘ならばまだいいが、傀儡となる可能性の方が高い」  ぶる と震えるのはまったく考えたこともなかった遠い未来の話をされたせいで…… 「故に僅かな力にしかならなくともバトラクスを興そうとしたのだ。そうすればヒロはバトラクスを名乗ることができる。そうすればゴトゥスの英雄である大公の後ろ盾と、この世界最高峰の剣聖との繋がりが手に入る」  そう言われて安堵してもいいはずなのに陛下のこちらを見る目は揺るがず、例えその名を名乗れたとしても問題があるのだとオレに知らしめた。 「大公家も剣聖も一代限りのものだ。順当ならば親が子より後に死ぬことはない」  ヒロが王位に就いたとして、在位中にその後ろ盾が無くなった場合……  やっと歯の生え始めた自分の子供に、すでに人とは違う困難な人生が用意されていると聞いて素直に頷ける親なんていない。  成長して自分の意思でそうなりたいと願うのならばともかく、すでに決められた道筋の先に親の死の段取りまで組まれているなんて…… 「何もない、よりはましだと言う程度だがな。どちらも貴族の腹芸に使えるわけではない」  腹芸 と言われてしまうと、オレもそうだけれどクラドも苦手だろう。  関わることのなかった世界の話をされて、それを理解しようと努めるけれどくらくらとした眩暈を引き起こしただけだった。

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