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「まだ、お話は続いているようです」 「そうか」  小さくソファーの布地が軋む音がして、背後を気配が動く。  王もそうだけれど、やはり猛獣である虎の気配が傍をうろつくとどうしてもぞっとするような、身を竦ませたくなるような警戒心が沸き上がってしまって、背を向けていることが危険に思えて慌てて振り向いた。  青い目が、射るようにこちらを見ている。 「あっ」 「ではまだ戻ってくることはないな」  触れてはいないけれど、服越しに体温を感じるような……そんな距離に近づかれて咄嗟にぎゅっと身を縮める。 「あの……椅子に戻りますので  」  服に焚き染める香の匂いがはっきりと分かる距離に近づかれると、どうにもならない本能的な恐怖心で自然と震えあがりそうになってしまう。  知らず知らずの内に逃げようとしたオレの顎を掬い上げ、その場に縫い付けてしまった。 「話すならば今のうちだ」 「え?」 「問題が大きくならないうちにすべて話してしまった方がいい」 「な 何の話か……」  近寄られた恐怖と訳のわからないことを話せと言われてしまって……  堪え切れずに震えるオレを見下ろす青い目の冷たさに小さく首を振ったのと、ロニフが部屋に飛び込んできたのがほぼ同時だった。  いつもはこちらを見てにっこりと微笑む瞳も、慣れない環境で疲れたのか早々に瞼を落として隠れてしまい、オレはうら寂しい気分を抱いたままロニフが用意してくれた客間を見渡す。  豪奢ではないけれど、一つ一つとても質の良いものが使われているのが分かるそこは、もてなすために花が生けられていると言うのに余所余所しさを感じる。  早く自分達の暮らす場所に戻りたくて、自分の体を抱き締めて少しでも小さくなるように縮込めた。  オレ自身が、ヒロはオレの子だと一番良くわかっているし、疑いようもないのはわかっているのに、陛下に言われた言葉がぐるぐると胸の内をのたうち回って、なんとも言い難い気分の悪いさを訴え続けている。 「クラド様の耳と尻尾と……」  顔立ちは、オレに似ているとクラドは言う。  と、言うことはかすが兄さんにも似ていると言うことで……  兄弟なのだから仕方のない部分であんな疑いを向けられたのかと思うと、ふつりと怒りが湧いてくるようでもあった。 「  ──── はるひ」  盆にカップを二つ乗せたクラドが静かに扉を開けて、滑り込むように入り込んでくる。 「体の温まりそうなものと、摘まめる物を貰って来た」 「ありがとうございます」  本来ならクラドがするような雑事ではなかったけれど、この屋敷にはロニフ以外の侍女がいなかったために、ヒロの授乳で動けないオレの代わりに受け取りに行ってくれた。

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