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2−20

 テーブルの上に置かれたカップの中にはいい匂いをさせるホットワインがたっぷりと注がれていて、その香りに少し心が軽くなるような気がする。  クラドが甲斐甲斐しく椅子を引いて手招いてくれるのでそちらに寄ると、抵抗する間もないほどの素早さでさっとオレを抱え上げて椅子に座ってしまった。  細身のデザインの椅子は二人の体重を支えられるのかとハラハラもしたが、見た目の割にはしっかりしているらしくキシリとも音を立てない。 「わっ クラド様っ」  膝の上に座らされて、不安定な体勢に思わずクラドにしがみついたけれど、そのせいでますます恥ずかしい思いをする羽目になってしまった。  筋肉質な太腿の感触が尻の下にあるのを感じ取ってしまうと落ち着かなくて、「重いでしょうから」と理由をつけてそこから降りようとするも、クラドは腕の力を緩めようとはしない。ジタバタと足をバタつかせてみても、その腕はオレを離そうとはしない。 「俺を甘やかすと思って、少しだけこうさせてくれ」  細かい傷跡の残るがっしりとした手が縋るようにオレを抱き締める。  くすぐるようにうなじに息がかかり、すり と鼻先が皮膚に触れて追いかけるように体温がジワリと広がった。 「っ 」  自分のものより幾分高い体温は、そんな風に触れられるとゾクゾクとするような感触を思い起こさせるせいか、ぐっと唇を引き結ばなくてはいけなかった。 「無体なことはしない」 「 は、はい」  掠れた声で囁かれたそれを残念と思ってしまう自分のはしたなさに恥ずかしくなり、膝の上に置いた手をもじもじと弄りながら俯く。  そうするとどちらがお互いのものかわからない心臓の音がして、それに促されるようにしてクラドに凭れ掛かった。  ふわりと柔らかにクラドの匂いがして……  胸の内から湧き上がるような衝動に身を任せてしまいたい気持ちもあるのだけれど、慣れない部屋にいやいやと首を振る。 「昼間のこと……すまなかった、怖かったろう?もう陛下もいい歳だからあんなことはないと高を括っていた」  そう言うとクラドは抱き締める手に力を込めた。 「二人きりにするべきではなかった。虎の精力を舐めていた俺の怠慢だ」 「いえっ それはいいんですっ」  そう大きい声で返すと、クラドは窺うように「ん?」と首を傾げる。 「それよりも……ヒロのことを、あんなふうに思われていたのがショックで」  原因はすべてオレの思い込みなだけに、自分自身が情けないし悔しいしで鼻の奥がツンと痛む。 「ヒロが俺達の子供だと言うことは、俺達自身が十二分にわかっていることだ。陛下がどう言おうとも問題はない」  いつも熱いと感じるほど体温の高いクラドの手が、オレのふわふわとした猫っ毛を優しく撫でて宥めようとしてくれている。

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