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 その気持ちは嬉しいけれど、それでも陛下に言われた言葉が消えてなくなるわけではなくて、しこりのように胸に何とも言えない気持ちの悪さを残す。 「…………クラド様」 「どうした?」  オレが擦り寄る分だけ、抱き締める手に力が籠る。 「もし、もしですよ、クラド様が兄さんの方を選びたかったのなら   っ」  口にそろりと乗せた言葉が痛みのせいで途中で掻き消えた。  ぎゅっと摘ままれた鼻の痛みに抗議の目を向けると、昏い色を乗せた銀に光る双眸がこちらを睨みつけている。 「何を言おうとした?」 「ら、らって……」  王家に関わるなら知っていて当然のことを知らないってことも、異界から来たのになんの役にも立たないってことも、オレにはひどく負い目に感じることだった。  その上、ヒロの未来に関して足を引っ張ってしまったことも…… 「お前は俺が兄の妻に懸想するような奴に思える と?」 「ち、が 」 「俺のはるひに対する気持ちを疑っている と?」 「違います……」 「俺は、今後一生はるひ以外に気を向けることはない」 「…………」  答えに詰まって開きかけた唇を引き結ぶと、クラドは怪訝そうな表情で「ん?」と促すような小さな声を零す。  その言葉を疑っているわけではないのだけれど、オレは、オレを求めてくれるクラドに何を返せているのかって思ってしまって……  かすが兄さんのように浄化の力があるわけでもなく、  かすが兄さんのように偉業を成し遂げたわけでもなく、  かすが兄さんのように……  オレは、役に立たないおまけだから。 「…………」 「以前の騒動はすべて誤解だと言う話は覚えているか?」  繰り返し繰り返し互いにしこりを残さないように話し合い、共に納得いくまで沢山会話をして、クラドは言葉が足りない部分も多くあったけれど、それを補うようにいっぱい言葉をくれた。  寄り添い合いたいと言う気持ちを表すその行動は本当に嬉しいものだ。 「はい、よく覚えています」 「では、俺は伴侶を替える気がないと言うのも覚えているな?」  狼は一度番った相手と一生添い遂げると言うのは、さんざん言い聞かされたことだった。 「あれがすべてだ」 「でも……」  それでも、クラドにとって、ヒロにとって良いのは、思慮深く軽率な行動をとらない、ましてや肩書きなんて何もないオレじゃなくかすが兄さんじゃないかって思ってしまう。 「それに、巫女のきつ……はげし……気がみじっ   いやっ……少々、そう!少々気丈な部分は、俺にはついて行け……じゃなくて、理解が及ばない」  しどろもどろと言うクラドに、今度はオレが怪訝な顔をする番だった。 「あれで兄上たちは相思相愛なのだから、ヘタな邪推ばかりしていると馬に蹴られてしまうぞ」  にやりと笑って鼻の頭をつつかれると、恋愛事はクラドしか知らないオレにはそう言うものかと思うしかなくて、曖昧に頷き返すのが精いっぱいだ。

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