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「おかしなこととは、思いません」  侍女の姿に徹していた際の動かない表情しか知らないせいか、その微笑みにほっと胸を撫で下ろす。 「ミロク様も手ずから料理をされることもございますので」  自分で家を建てようとする位なのだから、ミロクの行動はこちらの世界の基準としては破格なのだと思う。  けれどそれを周りが受け入れているのは、ミロクが異世界から来た神に選ばれた男巫女であり、前国王の伴侶であり、現国王を産んだ人であるからだ。  じゃあ、オレは? 「あ の   相応しくないと思われますか?」  そう尋ねかけると、ロニフはヒロを抱いたまま首を傾げてこちらへと歩み寄ってくる。 「申し訳ございません、ご質問の意図をはかりかねております」 「クラド様が選んだ相手に……その、爵位もなければ肩書きもないので…………」  王宮でぬくぬくと育った割には、自ら湯を沸かす方法を知っている なんて、貴族に準じる立場のすることではない。  客人として、ロニフは十二分に良くしてくれるし、陛下がオレに触れてきた際には無礼を承知で割って入ってくれた。  オレのことを邪険にしたり、そう言った雰囲気は一片すらなかったけれど、その立ち居振る舞いはあまりにも業務的で堅苦しく、突き放されたように思えてしまう。 「閣下が選ばれましたこと以外、何が必要なのでしょうか?」  困惑を示す内容なのに、その口調はどこまでも平坦で淡々としている。 「あの  向こうでは、結婚する場合、お互いの親に挨拶をするんです」 「はい」 「そう言う、礼儀も通しませんでしたし、その……あまりよく思っていただけていないのでは と」  言葉を選んだつもりだけれど、貴族的な言い回しなんて思いつかずに結局はあからさまな表現になってしまった。 「私が、はるひ様に不安を感じさせてしまったようでございますね」  そう言うとロニフは椅子を示してオレを座らせ、ヒロを抱かせてくる。そして手早い動きでミルクを作ると、不安に押し潰されそうなオレにそれを手渡してきた。  ミルクの匂いを嗅ぎつけたのか、ヒロがはっとした表情をして腕の中で暴れ出すので、大慌てで口に哺乳瓶の先端を含ませると、じゅ と勢いよく吸い込む音が響く。 「────私は、この世に意識が生まれた瞬間から独りだったのです」 「え?」 「狼獣人は普通は親族などで群れて暮らすものでございますが、私が自分の意識に気づきました時には周りに人はおらず、独りでございました」  クラドとよく似ているしっかりと立ち上がった耳に触れ、 「この体毛のせいではないかと推測はしているのですが、正直なところ理由は私にはわかりかねております」  漆黒の、月のない夜空のような美しい被毛だと、クラドの尾を梳きながら毎夜思っていたことだ。  クラド以外の狼獣人を知っているわけではないけれど、普通の毛色ではないことは侍女達の噂話で知っていた。

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