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「物心ついてより独りでございましたゆえに、家族や仲間と言った相手とどう接すればよいのか。ヒロ様そしてはるひ様に対して失礼な態度を取りましたこと、まことに申し訳ございません」
「ちが そんなんじゃっ 」
慌てて否定して見せると、僅かに首を傾げたのか黒い髪がさらりと音を立てる。
「私はヒロ様にお会いすることができて、幸甚の至りと感じております」
そう言ってヒロに視線をやる姿はどこか柔らかく見えて……
「ですが、下女が次期国王陛下に馴れ馴れしく接することは良いことではございません 」
少し解れかけた壁がまたも強固になった気がして、戸惑いを隠せないままに緩く首を振る。
侍女とは言え、ロニフはクラドの母であるしヒロにとっては祖母で、兄と二人だけでこちらに連れて来られた身からすれば、クラドを通じて繋がることのできた親族だ。
かすが兄さん達が簡単にヒロを受け入れてくれたせいか、どこか身内ならば無条件に手放しで喜んで受け入れてもらえると思ってしまっていたのかもしれない。
だから、堅苦しく、自ら進んでヒロと関わろうとしないロニフに失望しなかったと言えば嘘になる。
ロニフがオレを嫌う理由なんて、心当たりが多すぎて……
「でも……クラド様のお母様ですから……」
オレの言葉を聞いて、ロニフは少し戸惑ったようだった。
空になった哺乳瓶を受け取り、それに視線を落としながら言葉を探しているように視線が揺れる。
「私を閣下の母 とは、言い難いのかもしれません。ですので、そのように接することは致しかねます」
「そんな 」
「日中に陛下が私にされました話を、覚えておいででしょうか?」
いきなり切り替わったように思える言葉に戸惑いを覚えたけれども、記憶を辿って陛下とロニフの会話を思い出す。
二人の、会話らしい会話は……
「閣下は、私の行いのために長らく陛下のお子とは認めていただけなかったのです」
「え……」
きっと、戸惑いと言うよりも一瞬思い出した昼間の詰問のせいで怒りの方が顔に出てしまったのだと思う。ロニフは緩く首を振り、「認知はして頂いております」と付け加えた。
「虎獣人の特性をご存じでしょうか?」
「いえ、詳しくは」
「ネクト陛下は特に虎の特性が濃く出ておられまして、 」
そう区切ってロニフは言葉を選ぶために逡巡して見せたけれど、いい言葉が思いつかなかったのか変化に乏しい表情で「絶倫です」とさらりと告げる。
いや、恥ずかしがりながら言われてしまえばそれはそれで反応に困ったのだろうけれど、言われた言葉を素直に受け入れることができなくて「ぜつりん 」と口の中でぼんやりと繰り返す。
それを理解と取ったのか、ロニフは頷いて見せた。
「二日で百回 と、までは申しませんが、その性欲の旺盛さは笑い話にも上がるほどです」
クラドとよく似た生真面目そうな顔は冗談を言っているようにも見えず、戸惑いながらも神妙に頷き返すしかできない。
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