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「ロニフ様はクラド様のことを大切にしてらっしゃいます!だから、産んだんでしょう?」 「…………」 「大変なことになるってわかってても産んで、それでもクラド様のことを考えて隠して、クラド様の将来のために今度は母親であることもなかったことにして」  そんな身を切られるような思いを出来るのも、ロニフが母親だからだ。  クラドのためを思う、母親であるロニフの…… 「そんなことをできるのは、ロニフ様がクラド様の母親だからです!」  はっきりとそう言い切ると、ロニフははっとしたように耳をぴくりと動かした。 「オレが、同じことをできるかって言われたら絶対に無理だし、自分が子供と一緒にいることを優先させてしまうと思ういますっ!クラド様のことを考えてそのために突き放すことができるって、簡単に出来ることじゃないです!それって、クラド様のことを大切に思って、大事にしたくて、子供のことを最優先で考えたからだと思います!」 「ですが、閣下の足を引っ張る私は、やはり親に相応しくないと思われます」 「違います!子供のことをそれだけ思えるって言うのは、母親だからです!それだけで十分じゃないですか!」 「     」   相変わらず表情は感情の乏しいものではあったけれど、物思うように微かに傾げられた首がオレの言葉を繰り返し噛み締めているように思わせる。 「それに、クラド様はロニフ様にお会いできることを楽しみにしてらっしゃいましたよ」  オレの言葉を聞いて、ロニフは曖昧な表情だ。 「ヒロを会わせたいんだって。それに、ロニフ様を大切に思って、愛情を感じていなければ母上なんて呼ばないと思います」  腕の中でもぞもぞと動き出したヒロが、ロニフの持っている哺乳瓶に向けて腕を伸ばしてぐずるような声を上げ始めた。  ヒロの低い駄々をこねるような声にロニフの耳がぴくぴくと動き、上手くない微笑が口元に現れる。 「ヒロ様は退屈されていらっしゃるようですね」  そう言うとロニフはポケットから一握り程度の大きさのものをヒロの手へと握らせた。  かこん と柔らかな音がキッチンに響き、いきなり手に何かを握らされて驚いたのかヒロがびくりと跳ねたのが分かる。 「よろしければこちらを」  赤ん坊が握れる程度の木の輪に、さらに小さな木の輪が三つほど通されていてそれが振る度に、かこかこと木のぶつかり合う柔らかい音が耳を打つ。  小さなそれは、ちょうどヒロが持つのにいいくらいのオモチャだった。

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