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「ここに居る間はすることは何もない」  そう言う陛下の長い尾がソファーの座面をぱしんと叩いて見せる。 「座って寛ぐといい」  どうしていいのかわからずにヒロを抱き締めて立ち尽くすオレに対する陛下の心遣いだろうけど、この部屋にあるのは比較的小ぶりの三人掛けのソファーのみで他に腰をかけれそうな物はない。  木箱に腰を降ろすこともできただろうけれど、状況を考えればあの中身は保存食だろうから、食べ物の上に尻を乗せるのは抵抗があった。  昼間のことを考えると陛下の隣に座るのは気が引けて…… 「  座るとヒロが泣くので」  もぞもぞと腕の中で動くヒロはご機嫌できっと座ってもぐずることはないだろうとは思ったけれど、そう理由をつけてあやす振りをする。 「じゃあ俺が抱いててやろうか?その細腕じゃあもうだいぶ辛いだろう?」  ほい! と両手を差し出すと、ヒロははっとした顔をしてそっちに懸命に手を伸ばし始めた。  「『兄貴とそっくりで細っこいもんな、あんま無理すんなよ。どこの世界でも体は資本だからな』」 「『しほん?』」 「資本 だな」 「『あ、そっか。おにぃちゃん、ありがとう』」  言葉に甘えてヒロを手渡すと、もうずいぶんと重くなっているのに軽々と抱き上げてあやす。 「随分と向こうの言葉がおさねぇけど、幾つん時にこっちに?」 「六歳 だったと思います、学校に入る前だったから」  かすが兄さんに甘やかされたせいか、オレの言葉遣いはそれでも幼い方なのかもしれない。  かすが兄さんのような喋り方にした方がいいと言う話をしたこともあったけれど、反対されてそれっきりだ。たった二人だけの兄弟として、かすが兄さんはオレにいつまでも幼い弟でいて欲しいのかなって思ったりもして…… 「はぁ~あの『バ神、マジクソ』」 「っ⁉︎」  思わず飛び上がったオレを見て、ミロクは「あっ」と口を押える。  コリン=ボサ神はこの世界の創造主であり、国教であり、奇跡を起こす存在だ。信仰の厚い薄いはあるにせよ、この世界の人間はすべてコリン=ボサ神を讃える。  ましてやその神の手に依ってこの世界に召喚されて仕える巫女が、そんな言葉を零していいのか悪いのかで言えば…… 「しー……」  あやす動作に紛れて人差し指を立てると、そう言って小さく笑った。 「ほら、俺が抱っこしてる間に少し休め。そんな長くはかかんないだろうけど」 「そうなんですか?」 「まぁゴトゥスも浄化されたし、ロニフ姐さんがいてくれるし」  そう言ってオレにもう一度ソファーを勧めてくれるから、断り切れなくて出来るだけ端の方に腰を降ろす。応接間にあったのと同じように、シンプルな見た目なのに極上の座り心地のソファーは、こんな状況でなければゆっくりと寛ぐには最適に思える。

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