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 渓谷に落ちて死んでいたかもしれないことと怪我を負って発熱していることもあるのだろう。  本能として子供を残そうとするのだ とわかってはいても、介抱されている立場で股間を膨らませていると言う部分には理性が働く。 「  っ」  耳をそばだててみれば、今は洗ったものを絞っているような水音がしている。  手絞りならばしばらくは戻ってこないだろうと覚悟を決めた。 「……っ、今 の、うち……だな」  この場所で自分を慰めるのはさすがに気が咎めて、痛んでふらつく体を無理やり引きずるように起こして水場とは逆へと向かう。  雨が防げる程度に天井の張り出した窪みの奥にちょっとした茂みがあるのは、以前にここを訪れた時に知っていたからそこまで行けば情けない姿をはるひに見られなくても済む。  幸い、ここには瘴気も魔物も立ち入れない。 「さっと済ませて戻ってくれば   っ」 「クラド様⁉︎」 「  っ⁉︎」  岩に手をついて進んでいたが、俺が思っていたよりも早くはるひが戻ってきてしまったようで、ばたばたと走り寄ってきて…… 「どうされたんですか⁉︎」 「あ、や……その」  わずかでも張りつめたそこに布に擦れるのを避けようと前かがみになっていたのが災いしたらしい、はるひからは具合が悪そうに見えたのか大丈夫かと尋ねならが支えようと寄り添ってくる。  そうすると鼻先にくすぐるように香ってくるのははるひの甘い匂いで、今の俺には毒のように体に沁み込むものだった。  ほっそりとした体がどれだけ撓るか知っている。  甘い声が掠れるほど甲高くなることを知っている。  細身なのに肉が乗った胸の柔らかさや、直線的だけれど滑らかな線を描く尻の官能的な美しさを知っている。  その体を知りすぎているがゆえに今、傍に来られるには非常にまずかった。 「はるひ、すまないがただの不浄だ。すぐ戻る」 「じゃあ! 傍まで支えます!」  上気した頬は俺への好意を隠す気もないようで、泣いたために赤くなった目元はそうではないのに煽情的だ。 「はるひ……ちが……その……」  ぎゅ っと取られた手に力を込めると、様子のおかしさを察したのかはるひが怪訝な表情をして……縋るような表情に、離れてくれと言っても聞かないのだろうと言うことを悟る。  仕方なく岩にもたれ直してから、諦めて「勃ってるんだ」と恥ずかしさを隠しきれない声で告げた。 「たつ ……?」  きょとんと返されて思わず頭を抱えて、かすがが徹底的に箱入りにして育てた結果に対して文句の一つでも言いたくなった。  男ならばこれで察してくれと思いもするけれど、何事においても言葉が足りなければ後悔すると知っている身としてははっきりと言わなくてはならない。  

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