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「じゃあお水汲んできますから、お肉見ててもらえますか?」 「……いや、俺が行く」  動揺を隠しきれていないクラドはそう言うと、オレが手渡した樹皮で作った簡易の器を持って川の方へとふらふらと歩いて行ってしまった。 「? どうしたんだろ……?」  とは言え、オレがすることは目の前のウサギだ。  新鮮なウサギ肉だったけれど、あいにくここには塩もなければ胡椒もなくて、せっかく獲ってきてくれたのに味気ないものになってしまいそうなのが申し訳なく思う。 「あ! そう言えば……」  この奥に行った先の水辺に特徴的な根っこの植物を見かけたような記憶があった。  塩や胡椒とはまた違うけれど、それでも肉だけの素朴すぎる味わいに花は添えられると思う。 「それから、柳はあったかな……」  クラドが動けているのはオレが一番よく知っているけれど、だからと言ってそこに痛みがあるのかないのかはオレの判断することじゃない。  もし、オレを不安がらせないために痛みを我慢しているんだとしたら、痛み止めの効果のあるこのお茶がいちばんだろう。  植物の根を取りに行くついでにもう一つの器に水を汲んで火にかける。  手早くそれをこなすオレを見て、クラドのぽかんとした表情は変わらない。 「はるひ……尋ねたいのだが……」 「はい?」 「この技術を、一体どこで学んだんだ?」  真剣な様子で尋ねてくるクラドは、オレがここで最低の最低の最低限くらいの生活を送れていたことに驚いているようだった。  少し時間はかかるけれど火は起こせるし、石を割って刃物にしたもので木の皮を剥ぐ、そしてそれで器を作って湯を沸かす。  普通、王宮で生きてきた人間には絶対に持ちえない知識と技術だからだろう、クラドは面食らったように落ち着かない様子でオレの手元を見ている。 「テリオドス領で学びました」 「……まさかあの赤狐ははるひがこんなことをしないと生活できないようなことを……?」  ざわ と感じた殺気に思わず飛び上がりそうになって、クラドに飛びついて一生懸命に首を振った。 「ちちち、違うんです! オレの知識はマテルが教えてくれたもので……」 「マテル……あの老婦人か」  そう言うとクラドは何か引っかかるようなことがある雰囲気の顔で視線をそらしてしまう。 「……ああ、あの年代ならリプテルスの戦火の生き残りなのだろう」 「リプ……名前だけは、学んだことがありますが……あの戦火の場所はテリオドスだったんですか⁉︎」  あの赤いラフィオの花が広がる朴訥としてのどかな光景しか知らないオレは、かつてそこで領土戦が行われたと言う事実すらうまく呑み込めなかった。

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