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「当時、村を焼き払われ、民達は身一つで山に逃れたと聞く。ならばあの夫人がそう言ったことに長けていても何ら不思議ではないな」
「知識は邪魔にならないからって。覚えておいて損はないって教えてくれたんです」
当時のオレには本当にそれが必要になることがあるかなんて思いもしなかったけれど、実際その知恵があって生き延びることができたのだから、マテルには頭が上がらない気分だった。
「今でこそ、あそこは近隣との諍いもなく平和だが、国の境目と言うだけあって昔は戦が絶えなかった場所だ。テリオドス伯の大伯父に当たる方が随分と活躍されたと聞く」
「大伯父……」
「終戦のきっかけになった最終戦で亡くなられた」
「……」
戦争と言葉にされてしまうと、それを体験したことのないオレは口を噤むしかない。
瘴気や魔物との戦いですら経験したことのないオレにとっては、争いあって死者が出ると言うことは物語の中の話のように遠いものだった。
マテルが罠の仕掛け方や捌き方、色々な知識をオレに教える度に少し寂しそうにしていた理由はこれだったのかもしれない。
「お陰で繋がる命もあった、我々は彼らを尊重するしかできない」
クラド自身、有事の際には先陣を切って行かなければならない立場からか、物思うような横顔は言葉よりも雄弁だ。
「……はい」
今の王国は平和そのもので、それらが何を礎にしてなされたものであるかはしっかり理解しておくべきだと火を見つめながら思う。
元の世界はこの世界のように常に剣を持っていないといけないと言うこともなければ、化け物と呼べるものに突然命を奪われることもない、こちらに来てからも王宮でぬくぬくと育てられて……
「帰ったら手紙を出せばいい」
「はい、そうします。とても気候のいいところですから、旅行もいいと思います。クラド様とヒ……」
ついでそうになった名前を飲み込んだ。
不自然に言葉の途絶えたオレに、クラドは何も言わない。ただ火の様子を見るように手を伸ばしただけで、そのことについて何も追求しようとはしてこなかった。
押さえた口から名前を出すことは簡単だったけれど、それを出してしまうと心が折れてしまいそうだった。
最後に見たのはミロクに抱かれて暗い通路にいる姿で……
こちらに銀色に光る眼を向けて手を伸ばしていたのに、オレはそれを振り切ってしまった。
今考えても、きっと何度考えてもオレはヒロを守るためにそうするだろうけれど、それと自分で子供の手を振り払ってしまったのは別の話だったから……
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