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その先には……何、と言うものもなかった。
少し秋が追い出されかかっている季節の窺える木々が茂っているだけで、それ以外には何もない。
けれどクラドはぎゅっと唇を引き結んでからオレを見下ろした。
「ここに仲間を埋葬した」
「 ───っ!」
はっと口を押えてよろめくと、クラドがさっと体を支えてくれる。
「俺達の隊は、ここに辿り着く頃にはこの空間でどうにかなる人数だけになっていたんだ」
こちらではなく木々の方を見るクラドの目は光を反射して綺麗な銀色に見え、それは一瞬泣いているんじゃないかってオレに思わせた。
クラドは当時のことを話そうとはしなかった、ただ断れない場合にのみどうだったかと尋ねられた答えとして「酷かった」と返すだけだ。
どんな雄弁な言葉よりも、そのたった一言とクラドの感情を押し殺したような雰囲気に気おされて、尋ねた人は気まずそうに他の話をし始めるのが常だった。
だから、こうしてクラドの口からゴトゥスでの戦いのことが聞けたのは初めてに等しくて、けれど胸は躍るどころか石を飲み込んだかのような感情だけが溢れかえった。
「なんとか連れてきた奴らも、ここで亡くなって 」
ゆっくりと持ち上がった指先が場所を示そうとしたけれど、途中で力尽きたようにぱたんと落とされてしまう。
「オレ……が、ここにいたから……」
「ああ、違う! 別に悲しんでいるわけじゃなくて……それに、はるひがここにいてくれないと、俺は死んでただろうし。それに墓参り代わりもできたしな、はるひに感謝している」
慌てて言うと、クラドはいつもオレに向けてくれるような笑顔を見せてくれた。
でも、やっぱりその瞳が物思うように悲しげだった。
ウサギの皮を中心からくるくると螺旋を描くように切り抜いて紐を作り、オレの履いていた頼りないサンダルを補強する。
「俺が抱えて走ればいいのだが、そうすればとっさの時に出遅れることがあるから」
「いえっ! 大丈夫です!」
ふんっと気合を入れて見せても……クラドからしてみたら不安がぬぐい切れないんだろうなってことはわかっていた。
一人ならさっさと麓まで戻れるのに、オレを連れてだとどうなるのか……
「ちょっと長いな、はるひ、ナイフを」
オレの足元にしゃがみこんでウサギ皮で作った簡易紐で足を縛っていてくれたクラドに言われて、銀色の装飾の多いナイフを手渡した。
「これは?」
「ミロク様のところのものを……持ってきてたみたいで」
おかげでサバイバル生活がずいぶんと楽になった。
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