298 / 304

落ち穂拾い的な 幼い王太子の初恋

 とにかく臭い糞尿の臭いに鼻が曲がりそうになったが、それを無視して祭壇前にいた司祭の元まで一気に走った。  何事かと目を白黒させながら、俺の髪色を確認した司祭は膝をついて「どうされましたか?」と丁寧に尋ねてくれる。 「俺の弟に洗礼を!」 「は?」 「新たな王の子だ、祝福をしてくれ」 「あ、あのっそんなことをおっしゃられましても、わたくしの一存では……それに、準備も  」 「簡易式があると聞いたことがあるぞ! おしめを替えてやらねばならんのだ、急げ!」 「では先に身を清めましょう  っ」  視線で「うるさい」と告げると、羊獣人だった彼は気おされたらしく聖書を開き拳を額につけると言うコリン=ボサへの祈りの姿勢をとった。  俺が抱えているからか、先程までのにぃにぃと言う泣き声は止んではいたが、今度はこの洗礼に怯えて泣き出しそうな気配を見せている。  真っ黒い、耳。  真っ黒い、尾。  真っ黒い、髪。  真っ黒い、瞳。  俺に不安そうにしがみついてくる漆黒の生き物は……酷く頼りなくて熱くて、どきどきしてて……臭かったのにいい匂いがした。 「ってことで、両親不在のうちに俺の弟にしてしまったってわけだ」  そう言うとはるひは「なんてことを」と言いたそうな顔をして驚いている。 「けれど、もし違ってたらどうされたんですか?」 「どうもしない。ロニフの生活サイクルで父王以外の男が近づく隙なんてなかったし、あの親だから十中八九そうだろうと確信していたしな」  カウチに横になりながら腹の上でヒロをあやしていると、あの幼い日のことを思い出す。   「あの……ところでお話があると  」 「ああ、ヒロを養子にもらうぞ」 「⁉︎ そ、それはっ  」  さっと表情を変えたはるひに手をつき出して無言で黙るように指示すると、かすがと違ってはるひは意図を組んだのか言いたいことを飲み込んだような表情をした。 「俺が退位を決めたらだ。その頃にはヒロも親離れしているだろうし、お前達も子離れしている頃だろうさ……おい、子離れはしておけよ?」  念押しした俺の言葉を繰り返して…… 「ではっ……離れ離れにならなくても……」 「どうせそのくらいの年齢になったらいやでも独り立ちしてるだろうさ。これが王家側からの最大の譲歩だ」  睨むようして言ってやると、はるひは悟ったのかはっとした顔をして頭を下げてきた。  育ちや後ろ盾のことを考えるなら早く俺の子供となって守ってやった方が安全だし、教育だってできるし、王族ならではの人脈を繋げてやることもできる。  本来なら今すぐに、俺とかすがの子として発表してしまいたい と言うのが王族側の意見だったが……  けれどそれの押し付けは、英雄と巫女を失う羽目になるぞ とさんざん脅迫してこの案に落ち着かせたのだ。 「あーぅ!」  クラドによく似たヒロが笑顔を向けてくるから、ついこちらも笑ってしまった。 END.    

ともだちにシェアしよう!