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1.大晦(23)

「お前が好きなのはここだろう?」  隆人の囁きが耳に吹きこまれると同時に、そこを撫でられた。  ひっと息を詰め、遥は敷布の上でびくんと跳ね上がった。無骨なはずの指がやさしくねっとりと揉みあげる。 「あ、ひっ、いいっ、や、あぁっ、あひっ」  絶え間なく熱い刺激が体の芯を刺し貫く。嬌声を上げ、のたうち回らずにはいられないのに、逃げられない。逃げたくない。追いつめられていく感覚に頭に霞がかかり、気持ちよさに溺れるしかない。 「ああ……い、いく、だめ、だ、だめ……やめ……」 「いっていい、遥。いけっ」  許しの言葉に張りつめていた精神が切れた。目の前がまぶしく輝く。 「ああっ、い、いっ、いっ、く、あ……」  ビクビクと身を震わせる遥の屹立からは何も吐き出されることない。しかし確かに絶頂を迎えた。余韻に体が揺れている気がする。  隆人が指を抜いた感覚に、また体が震えた。  隆人が世話係を呼び、手を清めるのを遥はぼんやりと見あげていた。  二人きりになると隆人が横になって遥の髪を撫でる。 「もう中だけで達してしまうか」  遥は隆人の首に腕を回して引きよせ、顔を隠すように押しつけた。 「しかた、ないだろ。そうしたのはあんただ。それに、ずっとしてなかったし……」 「ああ、そうだ。俺だな」  労るように遥の体をさする隆人の手は温かくやさしい。  遥は隆人の自分への気持ちを知りたいと思っていた。その答えをこの年越しの儀の最中にもらってしまった。  愛していると、隆人は言った  俺のことが好きかと、隆人は訊ねた。  由緒正しい家柄に生まれ、社会的に高い地位に就き、家庭を持っている男が、まったく違う環境で育った遥を求めている。遥に求められたいと望んでいる。  遥もまた隆人の側に在ることを願っている。できることなら、もっと長い時間を共有したい。寄りそい、触れあって、互いを分かちあいたい。  もう、認めなくてはいけない。自分の心を誤魔化してはいけない。  身を震わせながら深く息を吐いた。 「どうした、遥?」  不思議そうに問われた。遥は隆人の肩に額を擦りつける。 「遥?」  問いには答えず、遥は身を起こし、隆人を見おろす。 「加賀谷隆人」  その呼びかけに隆人も起きあがった。正座で向かいあう。 「俺は、高遠遥は、あんたが好きだ。愛している。これがあんたの問いかけへの答えだ」  隆人の目が瞠られたのが面白いと遥は思った。次の瞬間、強い力で抱きしめられていた。 「遥――ありがとう」  遥は笑った。覗きこもうとしてくる隆人にしがみついて、顔は見せない。 「正直、改めて好きかと訊かれて俺はわからなかったんだ。先にセックスを覚えこまされたから、単にあんたとのセックスが好きなのか、あんた自身が好きなのか。判断するのが怖くもあった」  それは……と隆人が言いよどんだ。無理矢理遥を加賀谷の運命に巻きこんだことは、今も隆人にとっては心の棘として存在しているのだろう。  遥は隆人の背をさすると、隆人が訊ねてきた。 「今は、わかったのか?」 「ああ」 「どちらだ?」  抱擁を緩めて顔を上げた。隆人と目が合う。遥は唇の両端をにっと持ちあげてみせた。 「両方」  隆人の目が丸くなり、叫んだ。 「それが答えなのかっ?」  遥はすまして大きく頷く。だが、頬は熱い。 「なんか問題あるか?」  隆人が噴きだした。笑いながら遥を胸に抱きこむ。遥は口を尖らせた。 「笑うな。人が正直に、きわめて真面目に考えた上で答えてやったのに」  隆人が遥の額にキスをする。一応笑いを堪えようとしているらしい。 「す、すまない。てっきり、俺のことがす、好きだからと答えてくれるかと思った。だが、お前は俺の、お、凰でもあるから――」  隆人が引きつるような呼吸をしている。 「両方とも好きでいてくれなくては困るのだった。お前は正しい」 「そうだよ。俺が正しいんだ」  胸を張って断言した遥は隆人に口づけた。  しばらく抱きあって互いの温もりを確かめあっていたが、隆人が遥の目を覗いて、微笑んだ。 「もはやそなたをこに籠むるは不要」  口調から儀式の流れに乗ったことがわかった。  隆人が立ちあがり、手を差しのべてくる。 「()よ、我が凰」  それを見つめ、隆人を見あげた。向けられる穏やかな眼差しは遥をいっそう素直にした。手に手を重ねるとしっかり握りしめられた。 「我が手を決して放すまいぞ」 「はい」  促されて立ち上がる。凰の御座所から隆人が遥を連れだす――凰を閉じこめた鳳自らが、自身を選びとった凰を鳥籠から外へ出したのだ。

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