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1.大晦(24)

 純白の掛け布団を隆人がめくり、敷き布団を包む鳳凰柄の織りだされた白い敷布に隆人が座った。 「そなたが清き身、我が前にさらせ」  遥は隆人の前で、立ったまま腰紐をとき、紐とともに肩から長襦袢が滑りおとす。  検分するように隆人の視線が遥の足先から頭へとゆっくり視線が上がっていく。  隆人にじっくり見られることで紅色に染まっていた欲望が更に力を増して頭をもたげ、遥の白い腹と鮮やかな対比を見せた。 「背を見せよ」  命じられて向きを変える。尻を掴まれ左右に開かれた。奥の窄まりにふっと息を吹きかけられ、ぞくっと震えた。  隆人が立ちあがったようだ。手のひらが背を確かめるように撫であげていく。 「我を見よ」  その言葉にまた隆人の方に向きを変える。  隆人が自らの腰紐をとき長襦袢を脱いだ。そして遥のものと併せて畳へと置いた。  遥は隆人の前に跪き、隆人がしたのと同じように下から上へと視線をやる。目の前の隆人の欲望も遥と同じく勃ちあがっており、引きしまった腹部で透明の雫を溢れさせている。胸板は厚く、たるみなどどこにもない。 「背をお見せくださいませ」  向きを変えた隆人の背後をゆっくり見あげる。無駄は一切ない、筋肉に鎧われた男の体だ。 「どうぞお座りください」  見つめあった後、遥は手を前につかえて頭を下げた。 「我が背に(いま)す凰様の御姿(おんすがた)、我との和合によりて顕現いただき、新しき年ともに迎えましょうぞ」 「承知」  隆人の腕に支えられて遥は絹の敷布の上に横になる。隆人の腕が遥の首の下に入りこみ、頭を引きよせられた。遥も隆人の首に両腕を回す。 「遥、はるか……」 「たか、ひと、た、かひと」  名を呼びかわしながら、額に瞼に頬にキスをし、唇を何度も触れあわせる。しっかりと重ねると舌を絡め感触を楽しむ。隆人に口蓋をくすぐられ、隆人の舌の奥を探る。互いの唾液が混じり、飲みきれずに唇の端(はた)から伝った。それを隆人が舐めとり、そのまま顎に唇を這わせてくる。そのまま耳へと移ってくる。  耳を舌でなぶられ、遥は頭を振って逃げようとした。くすぐったさにどうしても慣れられないのに、体をのたうたせてしまう。 「みみ、や、め」  濡れた音で自分の声も乱れる。しかし隆人はやめようとしない。それどころかもう片方の耳も指先で弄ぶ。 「あ、やだっ、だめっ」  無言で責めてくる隆人を突きはなそうとしたとき、遥は敷布の上でひいっ悲鳴を上げながら胸を反らした。両方の乳首を一度に摘まみ上げられたのだ。  隆人が遥の耳を解放した代わりに、爪で色の淡い尖りを弾き、引っかき、押しつぶしては、きつく摘まむ。下腹に、脳に、爪先に絶えず激しい電撃が走りぬける。耐えきれずに遥は必死に身を捩ろうとしたが、腹が重なりあっている上、腿も脚で押さえられて動けない。 「や、め、やめっ、ああっ、やぁっ」 「好きだと言っていただろう、遥?」  隆人の低い笑いが聞こえる。 「も、のには、け、んどが、ああっ」  立てた爪で押しつぶされて悲鳴を上げつつも、遥は頭を振って抗いを示す。笑いは続いている。 「さっきはもっと素直だったがな」 「このやろうっ」  罵声を上げ、遥は潤む瞳でキッと隆人をにらむが、隆人に堪えたようすはない。にこにこしながら、遥の片方の尖りに唇をよせて舌先で舐めた。 「んっ」  柔らかな感触に痛みが和らぐと同時に声が漏れた。気持ち、いい。隆人が舌で撫でては、軽く吸う。もう一方も先ほどまでとは打って変わり、やさしく転がすように触れてくる。腰から体が震えだす。 「ん、あ……、や、ぁ……」 「好きだろう、遥」  胸でしゃべる息の熱ささえ、体を燃えあがらせる。 「く、す、すき、すきだ。か、んじる。いきそ、ぁぁ……」 「正直でいい。だが夜は長い」  隆人が遥の体から離れた。いきなりの物足りなさに遥は頼りなく、あ、と声を漏らした。ごろりと横になってしまった隆人を恨めしく見る。  遥は起き上がり、隆人の顔の横に手を付いて見おろした。 「それなら、俺が隆人を味わう番だ。いいだろ?」 「かまわん」  面白そうに遥を見る仰向けの隆人の両膝を開かせて身を置くと、隆人の昂りに向きあった。  どこが感じるか、気持ちいいかはわかっている。自ら慰めもするし、遥が口淫されることに羞恥を覚えると隆人に知られ、からかう目的でされるようになった。  手に包むとそれは少し柔らかくなっていた。ゆるゆると扱くと硬さも質量も体積も増し、透明の雫があらたにぷくりとにじみ出てきた。すかさずそれを舐めとり、穴を舌先で(くじ)る。隆人が息を漏らした。思わずにんまりとしてしまう。  隆人とのセックスは深夜からなど、時間が限られていることが多く、遥が一方的に隆人を受けいれることがほとんどだ。儀式でも鳳凰はつがいであるがゆえに、雄である鳳に雌である鳳が身を委ねて抱かれる。こんなふうに隆人に見ることも触れることもほとんどなかった。

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