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1.大晦(26)

 人心地ついた遥と隆人の前に、あの茶が運ばれてきた。飲むと温かさが胸から腹に染みる。  その間に、碧が乱れた布団の敷布などを取りかえ、脱いだ物を畳む。枕元にはタオルが用意された。他の世話係たち七人がろうそくを新しいものに交換していく。 「ろうそくがあるだけで、けっこうこの部屋は暖まってるんだな」  遥のつぶやきに隆人がうなずく。 「室内を照らすのはもちろんだが、暖を取るためでもある」 「こんなにたくさんのろうそくがあって、着物を脱いだり、布団があったりするのに、今までよく火事にならなかったな」 「小火(ぼや)はあったらしいぞ」  平然と答える隆人に遥は呆れた。 「よく落ちついていられるな」 「次の間に消火器を備えてある。ろうそく立ても、倒れにくいよう深くまで差しこむようになっているし、(ろう)が溶けて不安定になる前に取りかえるからな」  大量の火も怖くないらしい。隆人が続けた。 「それでも今年の寒さはましなのだぞ。この鳳凰の間の中まではなかなか届かないが、廊下や縁側の天井にエアコンを設置したからな」  遥は廊下が暖かかったのを思い出した。 「わざわざ取りつけてくれたのか?」  隆人が遥の頬を撫でる。 「我が凰は、ここの寒さに慣れていないからな」  柔らかな隆人の笑みを見つめながら、温かな手のひらに頬を自分から擦りつける。 「ありがと、隆人」  すべてのろうそくの交換が終わった。碧が二客の茶碗を盆に載せる。  紫と洋が次の間との間の襖を左右から開け、碧を先頭に世話係が列をなして出ていく。全員が次の間に下がると四人ずつ二列に並んで正座し、無言で平伏した。そして襖が閉められた。  二人で布団に横になると掛け布団を隆人が掛けてくれた。そのまま抱きしめられて軽くキスされる。 「お前がフェラチオをしてくれるとは思わなかった」 「俺だってやればできる」  遥は胸を張ってみせた。  本来性的興味がもっとも強いはずの十代、遥の性衝動は薄かった。父との生活を支えることに必死で他人に興味も向かなかった上、アパートにやってきた同性の同僚に嬲られる父の姿を目撃し、性的なことは忌むべきこととなった。仮の凰であった時に隆人が言ったことは当たっている。  だからこそ、自分が同性から欲望の対象になることは許せなかった。ましてその行為に快感があるなど絶対に認めたくなかった。  そのかたくなな気持ちも、自ら隆人を選んだという自覚と隆人とともに重ねてきたこの八ヶ月が穏やかに過ごせたことで、少しずつ和らいできた。ずっと抱えていた父への罪の意識からも徐々に解放されてきた。  隆人が与える快楽に慣れ、隆人にも感じて欲しいと望むようになった。鳳と凰はつがいなのだから。  隆人が髪を撫でてくる。 「うれしかった」  思いがけない率直な感想に遥は頬も体も熱くなった。 「だからお前にもしてやろう」  隆人が掛け布団を足元へ押しやった。 「ベルトは外してくれよ」 「いいだろう。あと五十分ほどで年も明ける」  隆人の指先が根元に触れた。それだけでびくりと雄が期待に震える。  ベルトを枕元に置いた隆人が遥の両膝を開かせ、腿の間に入りこんだ。指で持ちあげられ、舌が裏の中心を舐めあげる。直線的に、あるいはくすぐるように左右に揺れながら。  遥はすぐに呼吸を乱した。あ、あ、と声が漏れる唇に指で触れる。吐く息がとても熱い。  隆人の指が遥から滲む透明の先走りを先端に塗りつけるようにくりくりと撫でる。湧き起こるじんじんとした刺激に雄が張りつめ、脈打っている気がする。舌と指とで責められて腰が揺らめいてしまう。 「あっ」  口の中に取りこまれたのは突然だった。柔らかな粘膜にじかに包まれ、遥は背を浮かせた。大胆に絡みついてくる舌は生き物のように這いまわる。口蓋と舌の間に挟まれて、喉で吸われながら抽挿されると一気に快感が全身を巡った。何も考えられない。ただ、このままいきたい。抑えられない欲望に腿がふくらはぎが、爪先が痙攣する。 「あっ、あっ、いっ、イッ――」  その瞬間噛まれていた。 「バ、カヤロ」  遥は呻きながら罵った。隆人は平然と口淫を再開する。痛みを癒やす舌づかいが憎らしい。 「簡単にいったらつまらないだろう?」  一度口を離した隆人を遥はにらむ。 「噛むなんて男のすることかよ」 「でも、もうお前は感じているぞ」  隆人が舐めあげると遥の屹立は満足げに揺れた。遥は隆人の唇に唇を寄せ、噛みついた。隆人に突きはなされる。 「痛いぞ」 「仕返しだ」  噛んだところをそっと舐める。それから唇の間に舌を滑りこませ、舌根をくすぐった。隆人からもまた舌を絡めてきた。混じりあった唾液を飲みこむ。  隆人が遥の下腹に顔を寄せ、遥のものを喉の方まで飲みこんだ。遥は思わずのけぞった。舌が這いまわり口蓋と頬の肉に包みこまれてゆっくりと抽挿が始まる。我慢出来ずに頭を振って快感を逃がそうとするが、追いつめられる一方だ。全身にしっとりと汗をかき、鼓動は痛いほど胸を叩き、吐精を耐える腹筋から下肢がひきつる。 「も、もう、あっ、あひっ、い、いっ」  身を反らし、遥は目の前に金の光を見ながら弾けた。ひくひくっと更に精を隆人に吐きだす。指で搾り上げられ、先端を舐められた。はあはあと息をしながら、目を開ける。

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