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1.大晦(28)

 指が抜かれ、腰を掴まれるとすぐに後孔に楔が押しあてられた。息を吐くと緩んだ肉輪を割ってずずっと挿入(はい)ってくる。  これだ、と遥は思った。これを待っていた。指で中を責められていかされても、口で柔らかに包まれていかされても、遥が望んでいたのは隆人との交わり――鳳と凰という互いを認め合った関係ゆえに成りたつセックスだ。 「ああっ」  侵入した隆人の楔は、遥の弱い部分を張りつめた先端で押しつぶしては退く。遥の体に火を着けようとするかのようにそこばかりを突いてくる。びりびりと刺激が前へ伝わり、遥の紅色の雄茎は育ちきって、揺れながら露を滴らせる。でもそこではない。もっと奥へ。もっと深く繋がりたい。隆人と――  遥は隆人の動きを見計らって自ら腰を振り、隆人の下腹へ尻を押しつけようとした。 「あっ、はっ、は……」  望みどおり奥に隆人の熱杭が打ちこまれた。甘い痺れが背筋を貫き頭から爪先まで震えが走った。 「遥、はるか」  名を呼ばれることがうれしい。潤んだ目から涙が敷布に落ちる。 「た、かひ、もっ、と……おく、奥まで、き、て」 「ああ、わかっている」  隆人が低く答えた。だが、その手は腰から離れた。 「ひいっ」  突然、両の胸の尖りを潰すほどに摘ままれて、遥は身を強ばらせた。中で隆人が息づくように体積を増す。 「や、やだ、ち、くび、だめ」 「好きなのに駄目なのか」  隆人が腰をグラインドさせながら、親指と中指で摘まんだ乳首を人差し指の爪で掻く。電流が体内を走り、遥の体が芯を中心に燃える。 「か、んじ、すぎ……イく、から……いっちゃう、からぁ……」 「大丈夫だ。もう二度、達しただろう?」  泣き言も受け付けてくれない。遥は目を硬くつぶり敷布を掴んで、後ろの抽挿と胸への責めにひいひいと声をもらした。だが、確かに隆人の言葉どおり、十分吐精したためか、それとも直接触れていないせいか、遥が上りつめることはなかった。だが瞼の裏には金色の光が明滅する。  隆人の突きあげが深くなってきた。腹の中を動くのがわかる。その太い杭に自分の肉壁が絡みついて、逃がすまいとしている。擦られることが気持ちいい。  隆人の手が胸から離れ、ほっとした遥の左のふくらはぎが持ちあげられた。右半身が下になり横になる。隆人が遥の左脚を自らの肩に載せると仰向け気味に上半身を支えた。松葉相撲の松葉のように脚が交錯している。その状態で隆人が遥の脚を掴み、細かく楔を打ちこんできた。遥は目を見開いて身を反らせ、悲鳴を上げた。 「あぁぁぁぁーっ」  だが隆人は容赦してくれない。遥は揺さぶられながら敷布を握りしめ、寒気にすら似た喜悦を受けとめる。  楔が今までにない体の奥を開いたのだとわかった。怖いほどの淫らな悦びが遥を繰りかえし襲う。体温が上がって汗がにじみ、滴る。目をつぶれば金色の火花が無数に散る。  熱い。蕩ける。隆人の穿った熱い泉から絶え間なく快楽が湧き、大きな波となって遥を呑みこんでいく。気が狂いそうなほど翻弄され、体のいたるところが痙攣し、呼吸さえ苦しくなってきた。  遥は隆人の足を掴んだ。 「たかひ、こわ、い……も、むり。くる、し」  繋がりがほどけ、遥は両腕に顔を伏せて、乱れた息を整えようとした。隆人の手がやさしく汗ばんだ背をタオルで拭いてくれる。 「背が美しく染まってきたぞ。もう少しだ。頑張れるな?」  遥は肩越しに隆人に微笑む。 「もっ、と、た、かひとを、かんじ、たい。いかせて。いっしょにとぼう」  隆人が遥をしっかりと抱きしめた。腕がほどかれると手は遥の背をゆっくりと撫でおろした。 「本当にいろいろなことがあったな。その今年もじきに終わりだ。遥」  隆人がためらうように言葉を切った。促すように遥は隆人に視線をやると、隆人の目が遥をじっと見つめていた。 「愛している」 「俺も隆人が、好きだ」  笑って答えた遥は顔を伏せると、自分の手で白い双丘を割りひらいた。  隆人の剛直がすぐに挿入(はい)ってきた。遥の小さな窄まりは限界まで開かれる。そこを隆人の指がたどる。  遥は自ら誘うように尻を振った。  そのとき手に顎を掴まれ無理矢理振りむかされてキスされた。まるで何かに追いつめられてでもいるような強引なキスだった。  困惑しながら額を敷布につけて尻を上げる。その体をふわっと抱きしめられた。温かい。 「あと十五分で年が替わる」  囁きに遥がきゅっと締めつけた。隆人と確かにともに在る。  隆人が一度ゆっくり呼吸をした。そして、鳳凰の間に声が響いた。 「ほどなく新しき年を(むか)う。そなたが背に負いし凰が飛びたつを――我ら人の子の鳳凰揃いて飛ぶを、尊き鳳凰様が望みておわす」  隆人の手が遥の腰を掴んだ。指先には肉に食いこむほどの圧が加えられる。再開した抽挿は今まで遥が経験したことのないくらい激しい。額で衝撃を受けとめることができず、遥は敷布に頬をついた。掴んだ敷布ごと体が前後に揺れる。深く、深く隆人が遥の隘路を広げて体が結びつく。苦しい。でもうれしい。 「あっ、ひ、はひっ、や、あっ、あっ」  肉の叩きつけられる音ともに悲鳴に似た声がこぼれる。腹の奥を隆人が犯している。隆人が求めている。それを自分は、自分の体は喜んでいる。背後から回される逞しい腕の熱さ。汗が滴り、背を伝うのにもたまらず身を捩る。肉杭が浅く抜かれては奥へ叩きこまれる。それを肉襞が包みこみ巻きついて信じられない悦びが生まれている。  体のすべてを暴かれ、揺さぶられ、突かれ、涙がとめどなくあふれる。指先の、頭の、背中の、腰の、内腿の、爪先の痙攣が止まらない。正気ではいられない。 「ひっ、い、い、くっ、くっ」  遥の頭は快楽に染め上げられもはや無だ。何も考えられない。  熱い。体中が熱い。遥の全身が燃える。  法悦を極める震える背から尻が朱に染めあげられた。そこに翼を広げかけ空を仰ぎ見て、飛びたとうとする凰が白く浮かび上がった。 「凰、顕現せりっ」  隆人の声が届いた。 「飛ぶぞっ遥」  きつく閉ざした目に金色の閃光が走り、激しい絶頂に叫んだ気がした。体の奥深くに放たれた(たかひと)の精の熱さにひときわ体が燃える。  その瞼の裏で閃光がゆっくり羽ばたいている。つがいの鳳凰は互いに鳴きかわしながら、遥の上を飛びまわっている。そして遥も浮遊感に笑みがこぼれた。  おれは、おれたちは、とんだ――そう思ったのを最後に遥の意識は途絶えた。

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