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第2話 野ばら②
大佐がニホン語を喋れると知ったのは、少し後の出来事。
「あんなの反則だ」
知ってたら変なドイツ語で歌わなかったのに。
野ばら……
「どうしたの、ソーマ。顔が真っ赤だよ」
「何でもないですっ」
大佐と出逢った日の事を思い出してたなんて言えない。
変な野ばらの歌も。
「でも……」
心配そうな藍色の瞳が俺を覗き込む。
「何でもないから!それよりマジック!」
「Bitte .それではこのカード……アァっ」
「わぁ」
不意に駆けた風が、カードをさらっていく。
空へ。
青空に白いカードが羽のように舞った。
「マジックは失敗だよ」
項垂れる大佐に何とも申し訳ない気持ちになる。
俺がちゃんとマジックを見ていたら、風に邪魔される前に成功していたかも知れない。
大佐……
「そんな顔しないで」
チュッ
「わぁっ★」
額に触れたの、大佐の唇?
気まぐれなそよ風みたいに掠めて消えていった。
「君にこれを」
俺の手を大きな手が包む。
そっと握らされたのは……
「幸福のコインだよ」
一輪の薔薇が刻まれた金貨だ。
「本物?」
「うん」
忍び込ませて検問をかい潜ったのだろう。
「本当はマジックを成功させて渡すつもりだったけど、君に持っていてほしいな」
陽光を受けてキラリと輝いた金貨。
捕虜である大佐にとって、この金貨は全財産だ。
「こんな高価な物、頂けません」
頑なに拒む俺に困ったように大佐は微笑んだ。
「じゃあ、君が預かってくれないかい」
頷く大佐。戸惑う俺。
「私は捕虜だから、抜き打ち検査で没収されてしまうかも知れない。君が持っていてくれたら安心だ」
「そういう事なら……」
俺が持っていた方がいいのかな?
「うん、お願いするよ」
チュッ
「わっ」
文化の違いなのか。
金貨を握らせた俺の手の甲、跪いた大佐が唇を落とす。
騎士のように。
硝子細工に触れるように、壊れないように、優しく優しく。
慈しみと忠誠をそっと刻む。
「Du bist mein Schatzt 」
えっ……
「今なんて?」
「何でもないよ」
キスの後、何か聞こえた気がしたのは俺の気のせい?
「勝手な行動で君に怒られるといけない。そろそろ帰るよ」
「えっと、はい」
「また明日、ソーマ」
「また明日、大佐」
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