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第29話《おまけ+》高度5000米から愛を込めて【後編】
「あっ」
「どうしましたか、大佐」
「忘れてしまったよ」
「何をです」
「お土産」
「あー」
ニホンを発つ時、何もかもが急だったから仕方ない。
「ニホンといえば……」
「海苔の佃煮」
「それもそうだけど違うよ」
朝食は白米と海苔の佃煮を好んでいたから、てっきりそうかと思ったけれど。忘れたお土産は違うらしい。
「ニホンといえば……」
「モーニング」
「うん、コーヒーのお値段でトーストとゆで卵が付いてくるのはお得だね。でもモーニングはお持ち帰りできないよ」
「あっ、そうでした」
朝食から離れよう。
「ニホンといえば……」
「温泉の素」
「あ、それも忘れた」
「そうなんですか」
しかし今は非常時だ。一旦戻る時間はない。大佐には我慢して貰おう。
「だんだん近くなってきたよ。ニホンといえば……」
「富士山」
「富士山は持ち帰れないよ」
「そうでした」
「でも近い!」
富士山が近いの?
「富士山といえば?」
「雪」
「雪といえば?」
「白い」
「白いといえば?」
「えっと……ええっと……」
白い物はいっぱいあるぞ。
白いといえば?
「フンドシだよ」
「えぇぇぇー」
「ジャパニーズおパンツ……フンドシを忘れてしまった……君と二人、ジャパニーズスタイルで空港に降り立つつもりだったのに」
「俺も!?」
「もちろんだよ!私と君、αとΩは一心同体だ。君も私とおそろのジャパニーズおパンツ・東洋の神秘★ワンダフル フンドシ姿をお披露目だよ」
「キャアーー」
「私は白、君は赤。紅白でおめでたいね♪
けれど、ラブラブワンダフル フンドシはベッドの横に忘れてしまったようだよ」
「そんなの忘れていいです!」
何がラブラブワンダフル フンドシだ。
「あっ」
「まだ何か?」
「君、枕が変わっても眠れるかい」
「特に気にしませんが。大佐は眠れないんですか」
「私も気にしないけれど、あの枕だけはッ」
一体、いつオートクチュール枕を注文したんだろう?
「オートクチュールなんて物じゃない。あれは私のお手製だ」
大佐がそこまで枕にこだわりを持ってたとは知らなかった。
「あのYES YES枕だけはァァッ!」
「………………えっ」
大佐、今……
「なんて言いましたか」
「忘れてしまったのかい?夜の営みを絶対断らない、断らせないYES YES枕だよ。一度使ったじゃないか。あれをベッドの上に置き忘れてしまったよ」
フルフルフルフル
「あなたは……」
フルフルフルフル
「あなたという人はァァアーッ」
「やっと思い出したのかい。そう……表もYES、裏もYES……ハートの刺繍付き♥YES YES枕を忘れてしまうなんて何たる不覚!」
「そんなの使った覚えないわァァーッ!!」
プシュウウウゥゥゥーーッ
見たか、正義の鉄拳・プシュー!!
頭から湯気出して寝とれ。
このヘンタイ絶倫夜の営み王。
……お願いだ。
あの部屋は危険すぎる。
(どうか誰も掃除に入らないでくれ)
いっそ大佐の使っていた部屋もろとも、寄宿舎を取り壊して下さい……
軍部に嘆願書を書こっかな。
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