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第31話

 ゴゴゴゴォンッ!!  異音が空気を裂く。  何だ?地響きを空に焼きつけたような、この音は?  雷鳴にしては音が高い。 「セイレーン空域!」 「違う。出没圏外だ」 「じゃあ、一体?」 「掴まれ!何か来る」  ほとんど大佐の直感だった。  ゴォンッ!!  空気が鳴動する。ガラスがビリビリと今にも割れそうなほど振動している。  轟音が夜を割った。  闇が燃えている。  火柱を噴いて翼が失墜する。  二機 「大佐……」  深い闇でも、はっきりと分かるほど濃く黒煙が空を焦がす。 「何て事だ……」  言葉を失う俺の後ろで声が震えていた。 「救援に向かいます」  操縦桿を引こうとする手を大佐が止めた。 「大丈夫だ。パイロットは脱出した」  右手の双眼鏡を大佐が下ろした。 「それよりも」 「……そうですね」  不明機が夜の闇に紛れている。  否。  ドイツ軍機を撃墜した時点で、99%敵機だ。 (俺達は狙われている) 「この機体に武器はありません」  解体寸前だった哨戒機(しょうかいき)だ。  機関銃等の装備の類は全て外されている。  戦闘になれば間違いなく墜ちる。  敵機の位置が分からない。  最悪の自体が脳裏をよぎる。 「私が指示する。従ってくれ。必ず助ける」 「信じています」  敵の位置が分からない。  であるならば、敵もまたこちらの位置を把握していない可能性がある。 (ドイツ軍機を発見して撃墜したか)  この場合、行動の選択肢は二つ。  一つ目は速やかに撤退だ。  ドイツに入国は諦めざるを得ないがやむを得まい。  二つ目は、進路を変えての航行だ。  敵をかわしてドイツに入れればいいのだが。かなりのリスクが伴う。 「敵は三機以上だ」  友軍二機が撃ち落とされた。 「たまたま哨戒中の一機が見つけたのなら、数で不利な条件で攻撃は行わない」  それが偵察任務というものだ。 「数で有利な条件の元で攻撃を行った。そう考えるのが打倒だ」 「では……」  敵の目を盗んでの飛行は至難の技だ。  撤退もやむを得ない。 「ソーマ、燃料は大丈夫かい」  ハッとして胸が脈打った。 「最短ルートでは敵に見つかる確率が高い。これより本機は超迂回ルートを取る」 「燃料は問題ありません。俺がもたせてみせます」  隼―改の飛べる最大高度まで上ろう。高度が高ければ高い程、燃費は抑えられる。  ドイツまで辿り着けば…… (湖でも川でもどこでもいい)  胴体着陸の経験はないけれど、やるしかない。

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