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第32話

 ツツッツーツツ!  突然の入電を報せる信号に、ハッと息を飲んだ。 「読み上げて」  大佐の指示にこくりと頷く。 「発信元は不明機です。信号は∑109」  友軍を撃墜した敵機が発信者とみて間違いない。  ドイツ軍の暗号・∑109とは…… 「ふざけるなッ」  曇った大佐の声が、怒声となって機内に響いた。 「友軍を撃ち落として∑109だと」 「大佐、∑109とは?」 「『救援求む』……救助の要請だ」 「そんなっ」  撃墜した当該機が救助要請だなんて。  馬鹿にしすぎている。  空の戦場に命を賭けて飛ぶ俺達軍人を何だと思ってるんだ。  ∑109は軍人の誇りを踏みにじった。 「照明弾はあるか」 「ありますが、しかし」 「用意してくれ」  撃てば敵にこちらの位置を知らせてしまう。 「大丈夫。私は冷静だよ。 無線信号が入ったという事は、ある程度、私達の位置を敵は把握しているだろう。だったら、いっそこちらも相手の位置と数を把握して突破口を開く方が、脱出の成功率が上がる。これは作戦だ」 「そういう事でしたら」 「私を信じて」 「はい」  ……元から信じてますよ。 「大佐、準備完了しました」 「照準は正面。12時の方角だ」 「了解」 「私の合図で発射だ」  黒き闇を見定める。  3(ドライ)  2(ツヴァイ)  1(アインス) 「Achtung(アハトゥンク), Feuer(フォイヤー)!」  轟音が大気を揺さぶる。  バチバチバチと火の粉が割れて渦巻いて、光の滝が闇を流れる。

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