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第33話

「何なんですかッ!」  圧倒的だ。  これは、まるで…… (蟻だ……)  夜に浮かぶ機影が多すぎて、黒い軍用機が蟻のように見える。 (三機……多くても五機なんて、読みが甘すぎた)  無数の機影が正面、12時の方向に隊列を組む。これは最早、空の壁だ。  いや。そんな事よりも! 「あれは何なんですかッ!」  空中にそびえ立つ黒い壁  まさに、それだ。  あんな巨大な物、見た事ない。  あんなに大きくて飛ぶのか。実際、空に浮かんではいるが……何のために?  あれを空に出した? 「女王蟻」  背後で大佐が低く、しかしはっきりとそう答えた。 「私達はあれをそう呼んでいる。空の要塞・空戦空母だよ」  ドイツには海がない。 「だから戦闘機をあれで運ぶ。空の空母だと思ってくれればいい。戦闘機を運ぶ戦闘機だよ」 「そんな物が」 「あぁ。開発途中だと聞いていた。しかし実用段階まで進んでいたとはね。実戦投入されるのは、恐らく今回が初めてだよ」  もっとも…… 「この遭遇戦が戦闘になれば……の話だが」  圧倒的数の不利。  砲火を交えれば瞬殺だ。  戦闘になる訳がない。  だが、もしも……  もしも、あなたが未来を見るのなら…… (その未来に、俺はいますか?)  もしも……  俺がもしも、あなたの未来にいたならば。  俺を信じてくれますか?  うぅん。俺はあなたと共にいたいから。 (掴み取るんだ)  あなたといる未来を! 「大佐。照明弾だけで、大軍に勝つ確率はありますか」 「答えようか。0パーセントだよ」  やはり…… 「だが」  不意に声が…… 「そこに私達の力は加わっていないよ」  柔らかに注いだ。 「それじゃあ」 「君の操縦と私の戦術が組み合わされば、勝率は格段に上がる」  戦場の空に声が響く。俺の胸の中に…… 「やってくれるね」 「もちろんです」  方角を間違えるな。  僅かな角度のズレが命取りだ。 「照明弾を全弾撃ち尽くす」 「了解」 「敵の目が眩んだ隙に戦場を離脱する。シンプルだが最も有効な手段だ」 「全速力で敵を引き離すと共に、最大高度で飛びます。あの大きさです。重量も相当なものでしょう。少なくとも《女王蟻》は追って来られません」 「いい考えだ」  大佐が頷いた。 「照明弾全弾、射出用意」  手に緊張が走る。 「Achtung(アハトゥンク), Feuer(フォイヤー)!」

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