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第34話
ドオオォォォオンッ!
音だけの脅しだ。照明弾に破壊力はない。
だが、これならば。
夜の闇が真っ白に染まる。
照明弾の連続射撃。
動けまい。
眩い光の中では。
「高度最大で撤退する」
「了解」
機体が軋む。
エンジンがフルスロットルで回転する。持ちこたえてくれ、隼―改。
ここが正念場だ。
空を埋める大群から一秒でも遠い場所へ。
ピィーッ
通信だ。全速力で飛んでも、まだ通信の入る位置にいるのか。
通信表示は……
「∑108K」
「より強い救援要請だ。つまり彼らは勧告に従えと言っている」
「融通のきかない人達ですね。従うつもりがあるなら、こんな手は打ちません」
「同感だ」
操縦桿を握る手に力を込めた。
(おかしい)
何だ?この違和感は?
ハッとする。
(音だ……)
空が静寂している。
隼―改のプロペラ音しか聞こえない。
そう……背後からドイツ軍が追ってくるものだと。音を振り払うまで、高く遠くへ。決意して操縦桿を握った。
なのに、エンジン音もプロペラ音も。戦闘機の音がない。
(なぜ追ってこない?)
背後から音が迫ってこない。
(俺達は標的じゃなかったって事か?)
そんな筈は……
否、待て。
(そうだ!)
最初から俺達は標的じゃない。
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