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第36話
ベルリン・テンペルホーフ空港
ベルリン・ブランデンブルク空港に次ぐ、第二の軍用空港である。
かれこれ二時間になるだろうか。
俺達は機内での待機を命じられている。
機体の周囲には天幕が張られて、外の様子はうかがえない。軍事機密という事なのだろう。
ピッ
通信だ。
「私が出るよ」
指が無線のスイッチを弾いた。
聞こえる会話はドイツ語だ。
どんな話をしているのか、俺には分からない。
「……Alles klar(アレスクラー)」
大佐の指が無線のスイッチ静かに戻した。
「降機指示だよ。行こうか」
「はい」
大佐の表情は固い。
ここは友軍を撃墜した軍の中だ。ドイツ全空港の閉鎖とも関わっているに違いない。
俺達のいる場所は、敵地のど真ん中だ。
一度視線を交わして、慎重に歩みを進める。
カツン、カツン……
タラップを降りる靴音が、夜の静謐に響く。
大丈夫。
前を歩く大佐の背中が語る。
バサバサバサッ
風が鳴いた。
天幕がはためいた。空へ。
外界を隔てていた幕が解かれた、瞬間。
ザッ
軍靴が響く。
カッ
一斉に軍靴が鳴った。
何十人……いや何百人。
居並ぶ軍人達が道を作った。
目の前が真っ直ぐに開けた。
ザッ
風の音だけが鳴く夜に。
一糸乱れぬ動作で一軍が敬礼した。
風が鳴く。
揺れてそよいで、焦がれて鳴いている。
真っ白の静寂の夜。
彼らは微動だにせず、ただ待っている。
カッ
軍靴が高く鳴り響いた。
夜風が雲を払う。
月光が降りる。
月が影が浮かび上がらせた。
美しい敬礼だった。
今までに見た誰よりも……
彼らはずっと待っていた。
英雄の帰還を。
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