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それは浮き世離れをしていた *

 一体、これはなんなんだ。天嘉は自分の口から漏れ出る甘やかな吐息を、他人事のように聞いていた。   「えらく敏感だな。自分でここを弄ることはしなかったのか。」 「や、…わ、ぁンな、…っ」 「きゃんきゃんと実に愛らしい…汗をかけば熱も下がる。お前はこの俺にただ身を委ねれば良い。」 「ひ、い…あ、あ、…」    着物の合わせ目から手を入れられて、天嘉は今他人の手で性器を擦られる喜びを身に教え込まされている。だらしなく足を開き、その間に蘇芳が陣取り楽しそうにその痴態を見つめていた。  体が熱い。溶けてしまいそうなくらい鋭敏な性感に、天嘉は高みを上り詰めるように自ら腰を浮かせてゆるゆると揺らめかせていた。  こんな気持ちがいいのは、知らない。天嘉が知っているのは、ただ体を押さえつけられて摩擦される、暴力に似た行為だけだった。  気持ちがいい、蘇芳がしてくれるこれはバカになりそうだった。   「き、もちい…やだ、ァ…や、や…」 「愛い、愛いなあ天嘉。上手だ。もっと婬に興じてみろ。」 「わ、かんぁ…い、イく…イく…っ」    蘇芳の瞳に映る自分を見たくなくて顔を背けるのに、それを許してはくれない。飲み込みきれなかった唾液が枕に染み込む。にゅちにゅちとはしたない音が、筒状にした蘇芳の手から微かな飛沫とともにはなたれる。かくかくと揺れてしまう天嘉の尻の隙間には、許可なく蘇芳の性器が挟まれているのも嫌だった。   「ち、ンこ…挟むな、ぁ、ァや、やー…」 「お前だけ気を遣るつもりか、つれないことを言うな。言っただろう、男を教えると。」 「ンぁ、あ…⁉︎」  ぷちゅん、と情けない音を立てて吹き出した精子を、蘇芳の手のひらが握るように受け止める。吐精後の余韻に浸るまもなく尻の間にそれを塗りつけられて、天嘉の身が強張った。   「い、やだ…、やめろ、怖い…!」 「天嘉、大丈夫だ。何も怖いことはない。尻を締めるな、落ち着いて呼吸をしろ。」 「やだ、いやあ…!」    足を抱え上げられ、悲鳴まじりに泣き始めた天嘉に、蘇芳が眉を寄せた。顔を覆い、小さく震える体をそっと包み込むように抱きしめると、宥めるようにその唇に舌を這わせる。  ン、ン、と唇を合わせるたびに漏れる声が蘇芳は好きだ。我慢が足りずに泣き喚くのも、おそらく初モノだからだろう。やわこく小ぶりな袋を遊ぶように揉み込みながら、後ろの蕾を指の腹で擦る。ふるふると震えていた小さな尻は、それを何度か繰り返してやるうちに、慣れたように徐々に力が抜けていった。    「ン、ふぁ、や…しり、おし、りやだ…そこ、いじんないで、ッ…やー…」 「天嘉は童のようにぐずるなあ…、あまり泣くと熱が上がる。ほら、腕はこちらだ、俺に身を委ねていればいい。」 「ヒ、…っあ、ああぁ、あ、あ、」    なんでこんなことになっているのか、天嘉にはさっぱり見当がつかない。腹の中を探られるように、ぬかるみを利用して蘇芳が中を蹂躙する。愚図るとあやすように舌を舐められ、甘く吸いつかれる。初対面の男にこうして体を許してしまうほど、浮世離れしたこの場所に、毒されてしまったのかもしれない。  天嘉の慎ましい窄まりは、徐々に快感を拾い寛げられていく。足の間に蘇芳の腰を挟み込みながら、快感に虚ろになった思考で舌を絡められたまま蘇芳越しに天井を見上げる。    ここには電気がない。シーリングライトがないのにこんなにも明るいのは、よくわからない発光体が天井を泳いでいるからなのだ。    ここは、なんなんだろう。俺、死んでんのに、こんなに気持ちが良くて死んじまいそう。そんなことを思っていたせいか、指を引き抜かれた腹が寂しさを訴えるかのようにヒクヒクと震えてしまったことに気がつかなかった。  もう、終わりだろうか。無意識に蘇芳の着物を握りしめたのがわかったのか、優しく頭を撫でられた。   「天嘉。俺と契ろう。お前は俺の元に来た。つまりそう言うことだ。」 「どう、言う…こと」 「今はわからなくてもいい、これは決定事項だ。」 「何、あ、嘘…や、やだ待てって、い、ぁー…!」    ぎゅう、と大きな背中に縋りついた。熱くて硬いそれが、容赦なく侵入を始めたのだ。まさか挿入されるとは思ってなかった。あれだけ解されておいて、本当に入れるだなんて思っていなかったのは、頭のどこかでこの行為が他人事になっていたからである。狭い天嘉のそこに、張り詰めた蘇芳の性器がずぶりと入っていく。えずいてしまいそうなくらいに大きい。そもそも出口としての役割しかないのに、そんな行為を教え込んで欲しくはなかった。   「か、ふ…っく、くぅ…し、…」 「狭い。入り口が少しばかし切れたかもしれんな。まあいい、破瓜の痛みは一度しか味わせん。あとはお前に、雌の喜びを教えてやろうなあ。」 「おぇ…っ、めす、じゃねえ…あ、あぐ…っ」    生理的な涙が頬を伝う。蘇芳はまるで子猫を愛でるかのような柔らかな瞳で天嘉の顔を見つめると、落ち着かせるように唇を重ねる。  ちゅ、ちゅ、と可愛らしいリップ音を立てて宥めてくるのに、覆い被さるようにして腰を持ち上げれるせいで挿入が深くなる。蘇芳の傘の張った部分が内側のしこりをこそげとるようにして刺激をすると、天嘉の内壁の蠕動が甘えるようにして蘇芳の性器に絡み付いた。   「ひぁ、ン…!」 「ん…そうだ、いいこだ。そのまま身を任せるがいい。」 「あ、あぁ、な、にぃ…っ!こ、こぇ…や、やぁ、あん…っ…」    信じたくなかった。自分の口からこんな甘ったるい声が出ることも、そして腰が抜けるような麻薬じみた快感を、この体が喜んでしまっていることを。  ぱんぱんという小刻みな尻を打つ音に合わせて、天嘉の白い足がゆさゆさと揺れる。何度も頭を撫でられ、上手に尻を締めると甘やかすように頬に口付けられた。  腹の中を溶かすんじゃないかと思うほどの熱い種を何度も腹に出され、天嘉も薄い腹を痙攣させながらそれらを飲み込む。  手なぐさみに弄られた乳首は、次の刺激を期待するようにピンと主張する。自分の体がこんなにも淫乱だと言うのを、天嘉は蘇芳によってくまなく教え込まれた。  尻から精液を吹きこぼし、体位を変え、何度も腹に男を教え込まれた。最初は抵抗していたはずなのに、気がつけば自ら唇をねだり、そして雌のように征服される喜びに身を奮わせる。   「ぁ、ぁあ、や、も、もっと…あ、あ、あ、っいい、す、ぉう…ひぁ、あっ…」 「強請れ、もっと強請らんと、腹に種を付けてやらぬぞ。そうだ、いやらしくて実に良い。愛いなあ天嘉。」 「ぉく、おくもっと…こす、って、…それ、気持ちいのもっとしてぇ…ッ」    性器が揺さぶれれるたびに腹にぶつかる。血流が流れ、はりつめたそこは先程から尻の刺激だけで何度も遂情していた。頬にまで飛び散った白濁を、蘇芳に舐め取られるだけでもイってしまう。互いの腹を繋ぐように垂れる精子は全て天嘉が吐き出したものであった。尻にぶつかる茂みも、袋も、そして粘着質な律動音も全て、天嘉の視覚と聴覚を犯すのだ。一房垂れた射干玉のような蘇芳の黒髪に触れてみたくて手を伸ばす。息を荒げて腰を打ち付けていた目の前の美丈夫が、甘く微笑みながらその手に指を絡める。  そうじゃないのに、天嘉は熱に浮かされた思考の中、切なく痺れるそこで何度も蘇芳を締め付けながら、縋るようにその手に指を絡めて握り返す。  気持ちがいい、泣きそうだ。    苦しそうに蘇芳が息をつめた。ああ、また腹の中に出されるのだ。天嘉は握りしめたその手に甘えるように擦り寄ると、そんな天嘉を覆い隠すように蘇芳が抱き込み強く腰を打ち付ける。   「あ、あ、あ、んン、ひぅ、あぁ…」 「て、ンか…ッ…」 「あ、あーーー…」    びくんと跳ね上がった細い足が、小刻みにはねる。腹の内側に注ぎ込まれた熱い精液に涙をこぼすと、もう瞼を開けることができなかった。津波に飲み込まれたかのような激しいセックスに、前後不覚になると言う意味を身をもって理解した。  荒く呼吸を繰り返す蘇芳の熱い体を抱き返しながら、もう、なんだっていいやと思った。成仏する前に、こんなにすごい目にあったのだ。  もう、天嘉は身を任せればいい、それが一番楽なのだから。そう考えて、ゆっくりと抗えぬ微睡に身を任せた。 まさかこの契りが、天嘉の人としての人生を終わらせることになるとは知らずに。

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