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目を開くとすぐ傍に窓からの日差しを遮るようにぬっと人影が顔の前にあった。
「うわっ」
千雪はぎょっとして思わず起き上がると、相手の額と自らのそれを強かに打ち付けあってしまった。
「痛っ」
頭を抑えまだジンジンと訴える痛さに声を上げるも、貧血で目の奥が重く暗くなり、目の前にチカチカと星が瞬く。千雪はもたげた首をすぐまた力尽きたようにへなへなと枕に頭を沈めていった。
「うっ」
相手も千雪に額をぶつけられて顔を俯き加減にして小さく呻いている。
聞きなれた声を幼馴染のそれと認めるやいなや、千雪は日頃黙っていれば繊細精緻に描かれた西洋画のように優美な美貌を崩して、気遣わしげに覗き込んできた相手を大きな瞳でキッと睨み付けた。
「虎鉄! 石頭!」
「ごめんな。起こしたか?」
虎鉄は巻いていたバンダナ越しに強かに打ち付けられた額を摩りながら、よく日焼けした顔に穏やかな笑みを浮かべ、眦が切れ上がった奥二重の大きな瞳を真っすぐに千雪に向けてきた。
しかし感じのいいその爽やかな笑顔に騙されまいと、千雪は仰向けのままカアっと赤く熱くなった頬を手の甲をかざしながら隠しつつがなりたてた。
「お前!!! 俺に、今、キスしただろ!」
すると、虎鉄はイタズラがバレた男子小学生のようにニヤリとし、頭に巻いていた黒いバンダナを大きな掌でわしっと剥ぎ取り、快活な笑顔を見せた。
「寝てる千雪が無防備で可愛いすぎて、つい。それより、また倒れたって千秋さんに聞いたぞ? 大丈夫か?」
虎鉄のあまりにも悪びれず堂々とした姿に、狼狽している自分の方がよっぽど恥ずかしい気すらしつつ、負けじと千雪も言い返した。
「大丈夫だよ。店でちょっとふらついたから休んでただけだ。それより話そらすな! ……油断も隙も無い!!! 人が寝てる間に勝手なことするな!」
「いいじゃないか、初めてじゃないだろ?」
「は、初めてじゃなくても、気にする! 人の寝込みを襲うなんて卑怯だろ?」
「じゃあ、起きてる時ならいいのか? 」
虎鉄は首に手を当て男っぽい仕草で顔を傾け、千雪の心を透かすように覗き込んできた。見慣れた顔なのに真顔であればあるほど彫が深く男らしい端正さが目立つ。
内心見惚れ、それを悟られまいとしたが、かあっと耳まで 朱に染まった千雪の変化を見逃さず、虎鉄は口元には微笑みすら浮かべながら、ぐいっと悪戯っぽく唇を寄せてきた。
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