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(くっそ。小中高と熱血野球小僧だったくせに。大学入った途端、色気づいて、ぐいぐい来るようになった。調子狂う)
「それとも、大学に入って、俺以外にキスしたい相手でも出来たとか?」
試すような口ぶりに、突っ込みどころが多すぎて千雪は黙っていればいまだに美少女然とした長い睫毛をそり返しながら目を剥いた。
「俺以外って……。なんでお前とはする前提なんだよ? それに、同じキャンパスだし、わかるだろ? そんなやついないって」
自分で言って情けなくなってしまった。大学に入ったら今度こそ虎鉄以外にも主に趣味の合う友人を作ってみようかと思っていたけれど、千雪の人見知りな性格が大学生になったからといって突然なおる訳もない。虎鉄がいなければ幼小中高、絶賛ぼっち継続中だ。
「でも学部は違う。ずっと一緒にいられるわけじゃないだろ?」
「十分一緒にいるだろ? 俺ら殆どここで寝泊まりしてるし、昼だって、夜だって……。朝いちの授業同じ時は一緒に投稿だってしてるし」
今2人がいる場所は昨年亡くなるまで祖父が暮らしていた店舗兼住居だ。千雪と母の暮らすマンションは近くに別にあるが、ちょっとした一人暮らし気分を味わえるこの場所に、兄弟が多く静かになれる環境を求めてやってきた虎鉄と共にこの春から2人して入り浸っている。
「お前、こないだサークルの新歓飲み会に誘われたよな? 人気のカフェとか喫茶店巡るってやつ」
「虎鉄だって運動系サークルに沢山誘われてたよね? 飲み会だっていってたし」
「あれは矢来先輩の付き合いで行ったぐらいだ」
矢来は虎鉄の野球部の先輩だ。野球部の打ち上げにも度々虎鉄に引っ張り出されていた部外者の千雪にもいつも優しくしてくれた人だ。千雪にあれこれ口出ししてくるくせに、自分は自由にしていると遠回しにと詰ったつもりが、仕方のない理由を言われて千雪は口ごもる。
「その喫茶店サークルのくるくるパーマの先輩。向こうから結構熱心にお前に話しかけに来たって言ってたよな? お前がここで働いてるって知ってたってことだろ?」
逆にちょっと目が怖い虎鉄から詰問口調で尋ねられた。
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