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「そうだよ。結構賑やかなサークルだよって誘われた。おじいちゃんがジャズ流してた時のうちの店のこと知ってたから、話したらちょっと懐かしくなったんだ。特製ナポリタン食べにまた来たいって。たまに若いお客さんきてるのってうちの大学の学生さんかなって思ってたけど、本当にそうだったね。常連さんも大事だけど、若い人にも来てもらいたいよね」
千雪の祖父が趣味のジャズを流していた頃は祖父が存命だった1年前まで。今はダンス講師の傍ら母がお店を常連さんの力も借りて何とか切り盛りしているが、母の千秋は早いところ三代目たる千雪に店を譲って、本業一本に戻りたくて仕方がないみたいだ。
「……それ本当に喫茶店が目当てなのか?」
虎鉄しては小さな呟きを千雪は聞きとれず「??」と不思議そうな顔をした。
「うち以外の古い喫茶店巡って見てみたいなあと思ったけど、意外と人数多そうなサークルで……。俺、むしろ煩いの苦手だし、考えてみたら喫茶店なんて別に一人でも行けるし」
そんな風に応えたら、千雪の頬をふにっと触って虎鉄は満足げに微笑んできた。
「そうだな。喫茶店巡りなら俺と行けばいい。そうだろ? 将来お前がこの店継ぐとき、俺も手伝うって決めてるんだから」
「そ、そうだけど……。でもそれは大学卒業して虎鉄に別にやりたいことができたらその約束反故にしていいんだからな?」
「俺は千吉さんが創ったこの喫茶店が好きなんだよ。千吉さんに店と千雪のことは俺に任せてくれって約束してるんだから。じゃ、調べとくから、来週俺と行こうな?」
「それは爺ちゃんとお前が勝手に! んっ……。ちょっ! なに?」
再びゆっくり近づいてきた虎鉄の顔を、千雪は元々吊り上がり気味の眉をさらに吊り上げて、懸命に手を伸ばし、押しのけようとした。
「そもそも学校までここからチャリで10分なんだから、どこにもいかないで時間があったらすぐここ戻ってるって! 顏近い!! どけ!」
虎鉄の大きな切れ長の瞳がじっと千雪の瞳を覗きこみ、きゅっと細められると、なんだかこちらの心を見透かされているようで、自分が悪いことをしているわけではないのに妙に言い訳がましくなってしまう。それにまたムカついて千雪はつんっと澄ました猫のように顔を背けて赤い唇をむうっと真一文字に結んだ。
「これからも飲み会に誘われたら、真っ先に俺に言うんだぞ? 出先で貧血で倒れられたら危ないからな」
「わかったよ!!! 虎鉄の過保護! 汗臭い! 重い! 邪魔!」
虎鉄は少しだけ満足げに頷くと、片眉を釣り上げる彼特有の飄々とした表情を見せ、何事も無かったかのようにひょいっと千雪の手のひらをかわして身を起こす。
そんなふうに軽くいなされるとそれはそれでまた意味もなくむかついて、枕の上で首をめぐらせ視線で虎鉄を追うと、千雪には持ち得ないがっしりとした身体にいかにも似合いの男らしい顔つきは羨ましくて憎たらしいほどだ。
「どうした? 物欲しそうな顔して。やっぱり俺とキスしたかったのか? 」
そんなふうに囁きながらまた千雪の額にほつれた前髪に指先をはわせるから、今度こそその手を軽くぺしっと叩き落とした。
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