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 掛け布団の上にぱたりと無造作に載せていた千雪の白い手。その指先にするりと一本一本が硬くて長い虎鉄の指が絡められた。中高時代は真剣に野球をしていた虎鉄は引退した後も朝に夕にランニングするなど、身体を鍛えることは怠っていないから、その指先が繋がる血管の浮き出た腕は逞しい。千雪がまろび縋ってもびくともしないだろう。 「……なあ、欲しいんだろ? いいぜ。久々だろ? 飲みたきゃ飲めよ?」 どちらが飢えているのか分からないような、欲を帯び低く掠れた虎徹の声に、千雪は腹の奥がぎゅ、ゾクゾクと反応する。しかし最期の理性を振り絞って苦し気に呟いた。 「……だめだ」 「気にすんな。お前のために、いいもん食って、鍛えてんだから」  ぎらり、と虎鉄の瞳が妖しく光り、彼は自らの形良い唇に尖った犬歯を見つつけるように当て、力を込めて噛みしめた。 「だめぇ!」  ぷつっと丸く真っ赤な血が、鮮やかな紅でもさしたように虎鉄の唇に滲んでゆく。  そのまま千雪の唇にそれを押し付けるようになぞられ、差し入れられた舌先についた鉄の味が一瞬のうちに千雪の意識を絡めとられそうになり、どんっと虎鉄の肩を押し身体を離したがもう遅かった。  

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