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 熱に浮かされたような眼差しでうっとりと虎鉄を上目遣いに見上げ、彼の血で濡れた唇で微笑みを浮かべた時、千雪の瞳を見つめ返した虎鉄は今までにない熱のこもった視線でもって千雪を射抜いてきた。  その後の記憶は混濁していてよく覚えていない。無我夢中で味わった虎鉄の血潮が千雪の全身を駆け巡り、疼くような甘美な熱に侵されて最後には気を失ってしまったのだ。 (お前は俺に……。俺の中の『あの力』に捕まったままなんじゃないのか? 俺だって……。この想いは、恋なのか、それとも血を欲しいだけの欲なのか。わからないよ。でも、俺は……、ずっと……)  そして千雪自身も、大好きな虎鉄と離れることもできずに、かといって思いを真っすぐに伝えることもできないまま。  千雪自身も好きな男の血潮を味わう快感と本能が導く誘惑から逃れることができない。 引き寄せられた虎鉄のその弾力のある瑞々しい首筋は汗で塩辛く、だけどそんなことが気にならぬほど、歯を当て強く食い込めせていけば、千雪にしかわからぬ独特の狂おしく芳醇な上等な酒にも似た香りが立ち昇る。  千雪は身震いして自分の浅ましさに艶めかしいため息を吐き、そのまま生命そのものである生き血を啜ることを最後の理性で逡巡し真っ赤に染まった唇を離すと、千雪の視界は元通りに戻った。

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