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虎鉄が千雪に一目ぼれしたのは多分、二人が初めて出会った5歳の時だろう。
千雪は海外で生まれ、小学校に上がる前年というタイミングで、母親と共に実家の喫茶店があるこの街に帰ってきたのだ。
虎鉄の母親と千雪の母親は学生時代から仲良しの先輩後輩だったから、同い年の二人は近所に住む遊び相手として『喫茶night・dreamer』で引き合わされることになった。その頃は千雪の祖父ももちろん存命で、カウンターの向こうから孫の様子を心配そうな顔つきで見守っていた。
引き合わされてはみたものの、千雪は今以上の人見知りで、長い睫毛を伏せて母親の後ろから隠れ気味でろくに挨拶もできないほどだった。
虎鉄がいつも通りの元気な声で「こんにちは!」といってもまるで反応がない。
(言葉が分からないのかな?)
その頃の千雪は今よりもっと身体中の色素が薄くて、髪の毛など殆ど金髪だったし、柔らかな髪は肩口近くで柔らかなくりんっととした巻き毛になっていた。
その小さな頭がもじもじ、ちらちらと母親の背後から覗くのに、虎鉄は興味をそそられずにはいられなかった。
「一緒にあそぼ? みどり公園でっかい滑り台があって面白いよ?」
そういうと、虎鉄の方から千雪の母の後ろに回り込み、びくびくっとした千雪の目線に合わせて顔を覗き込みながら手を差し出した。すると千雪がおずおずと小さな手を差し出しながら、くりくりっとした大きく印象的な透き通るヘーゼル色の瞳を煌かせてこっくりと頷いてくれた。
そのはにかんだ笑顔は小さな星々が周りに零れ落ちてきたようにきらきらと輝いて見え、そしてあまりにも可愛く思えた。幼い虎鉄の心臓は文字通りキューピットの弓矢で撃ち抜かれたようにドキンと高鳴ったのだ。
(色が真っ白……。口だけ真っ赤で、お人形さんみたいに可愛い。こんなに綺麗な子、初めて見た)
普段はヒーローものが大好きで興味がない、でも幼稚園で先生が読んでくれたことのある、絵本のお姫様みたいだとそんな風に思った。
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