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「この子人見知りなのよね。虎鉄君、幼稚園でお友達がたくさんできるように助けてあげてくれる?」
そんな風に今と変わらず綺麗な千秋さんにまでうっとりするような笑顔で言われて、虎鉄は幼いながらにぽーっと舞い上がってしまったのだ。
「わかった。俺がいつも一緒にいるから、大丈夫だよ? 幼稚園楽しいよ?」
また小さくこくんと頷いた千雪を満足げに見下ろして、小さく頼りなげに柔らかな白い手をきゅっと取った。
(俺がこの子を助けてあげたい。守ってあげたい)
その時、沸き上がった熱い衝動は気持ちは今も寸部違わず虎鉄の中にある。
そして名前も顔も服装すら男女どちらとも取れるようなお洒落なモノトーンの服だったこともあり、虎鉄はてっきり千雪のことを女の子だと思って、一目で彼に恋してしまったのだ。
のちに虎鉄は端でその様子を眺めていた互いの母親たちからも『こいつは絶対千雪君を女の子と勘違いして惚れたに違いない』と確信されていたらしい。
しかし性別が男の子と分かればただの親友同士になるだろうと思っていた親の予測は大きく外れることになったのだ。
千雪は幼稚園に入っても虎鉄以外とはあまりに口を利かず(今思えば早口の日本語はよくわからなかったのだろう。虎鉄はそのあたりいつも気にしてゆっくり喋っていた)大人しくて、日に透かすと当時は金色に透けて見えた長い睫毛を伏せて園庭の端っこの砂場でひたすら穴を掘っているような子だった。当時から多分、日差しを浴びることに弱かった。顔をポーっと赤くして上せたような状態になっては先生たちと部屋の中でお絵描きをしたり絵本を読んだり。何となくほかのことは違っていて、千雪だけがおとぎ話に出てくるお姫様か王子様か。別世界の住人のように感じてそんな姿は虎鉄には幼い胸がぎゅっと絞めつけられる美しい光景として目に眩しくも切なく映っていたのだ。
千雪がいくら可愛くとも、いや可愛かったからなのか。
千雪があまり反応をしないと見るや、千雪の気を惹こうと意地悪をする輩が現れた。千雪のポケットに悪戯に砂を詰めたり、使っていたバケツやシャベルをわざととって行ったりする。千雪自身は意地悪されてもしくしく泣いたり落ち込んだりはしていないようだったが、それでも虎鉄は許せなかった。下に弟が二人もいる虎鉄は身体も大きく、当時からすこぶる面倒見が良く、幼い義憤に駆られていつでも千雪を庇っていた。
そのうち千雪が自分にだけはにかんだ笑顔を見せてたどたどしく礼を言って、なんとなく虎鉄とだけは一緒に遊ぶことを望んでいるそぶりを見せて懐いてくれることに有頂天になったのだ。
共に過ごして成長していく中で千雪は虎鉄にだけは素直に我儘を言ったり普通の少年らしい闊達な受け答えをしてくれるようになった。千雪は心も身体も繊細で、離れて暮らす父親や忙しく働く母親に迷惑をかけまいと手のかからないいい子になろうと努力しつつも結局最後は無理をして体調を崩してしまう。
そんなところも愛おしくて、それが恋愛的な好きだと気がつくのも自分でもあっさりと納得するほど早かったように思う。
(やっぱり千雪はぼくが守ってあげないと駄目なんだ。ずっと傍にいてあげたい)
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