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ぴちゃ、ぴちゃ。水音をたてながら柔らかな舌で舐められ、虎鉄はばくばくと耳まで届きそうな心臓の鼓動に苛まれながら、体操着の上から自分を慰めることもできずにただひたすらにその刺激を押し殺そうと口元に手を当て必死で耐え続けた。  しかし千雪が顔を真っ赤にしてあまりに幸福気な笑みを浮かべて虎鉄の血を舐めとっていくから、次第にその美しくも淫らな顔に魅せられ、憐れなほど自分を求めてくれるその姿に愛おしさが込み上げてくる。 『甘い……。美味しいよぉ』 『……いっぱい舐めな。俺の血もなにもかも、全部千雪にあげる……、千雪、あのな……』  思わず口をついて出かけた告白を遮ったのは、朝の小鳥の囀りのように涼やかな、変声期前の甘い声。 『こてつ、大好き』  先にそう告げてくれたのは千雪の方だと虎鉄は今でも断言できる。  ふわりと咲いた白薔薇のような清い笑顔に唇だけは赤みが滲んで艶めいて裏腹な美しさたった。あまりに可愛くて、あまりにいやらしくて。  こんな千雪の姿は世界中誰にもみせたくなくて。独り占めしたくて。 「千雪。千雪! 好きだ。大人になったら俺と結婚してくれ。ずっと一緒にいよう」  千雪のふっくら柔い頬を両手で掴み上げて覗きこんだら、涙に潤んだ瞳のまま千雪はたいそう愛らしい顔をして確かにこくり、と頷いてくれた。その後は無我夢中で……。千雪のわななく唇に自分のそれを押し付けていた。 「ふう、ふあっ」  千雪の吐息を奪う勢いで、技巧も何もないただ柔らかさだけを何度も啄むような口づけ。ぐっとまた足の間が痛むほどの刺激的な柔らかさ。最後にはぎゅっと息つく間もなく強く唇を押し付けていたかもしれない。  正直な話をすれば、幼いころから何度もお泊りをしあっているため、隣りで眠っている千雪があまりに可憐で愛らしく、その唇をすでに何度か奪っていたのだが、千雪は覚えてはいないはずなのだ。  だから意識の或る千雪に一世一代の告白をして、誓いの口づけをしたこの時初めて。つまりファーストキスと数えていいはずなのだが……。 「千雪??」 「……」  ばたん、きゅーっと。顔を離したら真っ赤な顔をした千雪がくったりと虎鉄の腕に倒れこんできた。  初めての吸血行為に酔い、そして初めての告白と唇を奪われたことによる衝撃で千雪は意識を失ってしまい、後に校医と共にやってきた千秋に感づかれた虎鉄は、その時千雪の身体に眠る父方の血脈についての説明を千秋に伝えられることとなったのだ。

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