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「いい加減、きちんと告白してさっさと恋人同士になりなさいよ。千雪もずっとだもだなやんでるんだから。受験失敗しなくてほんとよかったわ」
「それはすいません、だけど。……俺はとっくに千雪と生涯添い遂げるつもりでいる。覚えてないのはあいつだけだ」
「いつまで拗ねてるんだか」
「拗ねてなんてないです。バイト戻ります。バイト終わったらここきて俺らの飯作るんで、キッチン貸してください」
「ありがとう。冷蔵庫の中のものなら、なんでも好きに使っていいわよ。千雪のこと、一晩よろしくね? 私はヨガのクラス終わったらそのまま生徒さんと飲んでマンションに戻るから。」
母親ですら公認の仲だというのに……。千雪が何故未だに自分と恋人同士だと思っていないのか虎鉄には理解に苦しむところだ。
「虎鉄君」
「なんすか?」
「千雪はね、自分がヴァンパイアの力を使って貴方を虜にしてるって思い込んでるんだから、自分だけが貴方のことが大好きなのが苦しいのよ」
悩みを見透かされたような、しかし内容が内容なだけに店内を見回したが、離れた窓際にいつもの常連のお爺ちゃんが座ってうつらうつらと居眠りしているだけだったので虎鉄は息をついて千秋に向き直った。
「それ、俺。初耳ですけど。千雪は自分が魔力を封じられて持ってないこと知らないんですか?」
「うん。力を持ってないっていってない。大体自分に長いことメロメロの人がずっと傍にいるから気がついてない」
「……それは、そうかもしれないけど。どうして?」
「幼い千雪にそのこと話して、あの子が興味本位で力が欲しいって言いだして、父親とこちらから連絡とるような事したら……。マリウスは千雪に甘いんだから。きっと自分の傍に連れて行って封印解いちゃうと思ったからよ。そのせいで今までいろんな手を使って父親がわざわざここに隠してる私たちの存在が公になったら、色々ややこしいでしょ?」
「……それは」
「でも逆の相談はされたんだけどね。力を封じて、虎鉄君に本当の気持ちを伝えられたらどんなにいいかって千雪、悩んでたわよ。父さんに連絡とってみようかな、なんて。可愛い千雪を悩ます相手なんて知れたら、虎鉄君、血の一滴も残さないでこの世から消えちゃうかもね?」
子どもの頃一度だけ会ったことのある、千雪の父、マリウス。
背中を反らして見上げねば分からぬほどの堂々たる偉丈夫で、腰まである白金髪に赤い光がちらつくあの魔物じみた美貌を持つ千雪の父親の姿を思い出し、流石の虎鉄も背筋がぞくりと凍る心地になった。
「そんな事になる前に。ばかばかしい誤解、いい加減解かないとね? 前に言ったでしょ? この国で私たちが静かに暮せるように、千雪の魔力は父親が封じてる。吸血欲求だけが残った千雪が望んで受け入れられる血は、千雪が心から愛している人間。この世で私と貴方だけだって」
それが虎鉄にとっていつまでも千雪から想いを告げられるのを待ってみようと思う要因の一つになっていることは確かだ。
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