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「千雪は本能でとっくに貴方のことを生涯の伴侶だって認めてるのに。あなたと来たら一世一代のプロポーズ忘れられて拗ねちゃって。思い出さない千雪のことをいつまでも試して苛めてる」
「苛めてません。心から、愛してます」
「ふふ。意地っ張りなところは二人ともそっくり。でもねえ。気を付けないと……。千雪が生まれた時、女の子なら十八歳になったら一族の誰かの花嫁にと望まれてもいたのよ。ハーフムーンヴァンパイアっていってね。生まれにく人間の血が半分混じる存在は稀有で、彼らにとっては魅惑的に映るらしいのよ。人間の儚さと父親譲りの絶大な魔力の両方を兼ね備えた奇跡的な存在だって。千雪に惑わされたくて、屈服させたくてたまらないのよ」
「……」
「千雪には話してないけど、マリウスにもこの間忠告されたわ。最近もね、千雪の従兄弟たちの中には未だ私たちを探しているものもいるって。そもそもヴァンパイアは長命で、子孫を残すことに執着がないから、男の子でも構わないのかもね? 私たちは普通の生活を望んで、ここに逃がされ隠されているの。それは忘れないで。千雪を手放したくないのなら、互いに強固な結びつきが大切なんだからね」
千秋に煽られ、グッと詰まった虎徹が乱暴に岡持ちをカウンターの上に置き、千雪の元へと階段に踵を返そうとしたのを見て、千秋はくすっとちょっと意地悪く笑いながら立ち上がると、子どもの頃から我が子同然に見守ってきた親友の息子に大声で呼びかけた。
「虎鉄君、大将困るから。とりあえず。バイト、戻りなさい。あなたが戻るまで、ちゃんと千雪はどこにもいかないように私が見張っててあげるからね」
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