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「千雪、あのさ……」 「大丈夫。冷めちゃう前に、ご飯食べよう? 虎鉄がせっかく作ってくれたんだもの。美味しく食べたい」 「そうか。分かった」  その後は2人で黙々と夕食を平らげた。食べていると空腹を満たす方が優先される若い男子のサガで、互いの食事のペースを知り尽くしているから阿吽の呼吸で平らげていく。こんな時気の置けない関係は素晴らしいと千雪はつくづく思うのだ。 (そうだよな……。付き合うとか以前にさ。俺と虎鉄はもう、家族って呼んでもいいんだって俺は思うんだ)  黙々と食べる虎鉄の顔を眺めているだけで、多幸感で満たされる。  いつでも傍にいてくれた、大切な幼馴染。今さら付き合うどうこうにこだわることなのか。お互い気持ちが通じているのならそれがどんな理由であれ、いいのではないか。心地よいこの関係をわざわざヒビを入れるようなことする必要などいいはずがない。 (でも、やっぱり。俺は、俺の気持ち、ちゃんと伝えたい) 千雪の頭の中ではいろいろと堂々巡りの中ご飯を食べ終わり、一緒に1階まで食器を運ぶと、そのまま支度していた風呂の準備を手に、勝手口から虎鉄に続いて砂利道を踏みしめながら徒歩1分の福ノ湯の内風呂にやってきた。   貸切露天風呂は、一臣こだわりの総桧作りな上、ベランダの窓を開ければ縁側から庭木と共にとても狭いが空が見える。目下近所のカップルや家族連れに大人気だ。 家族の特権で遅い時間なら早朝の掃除を請け負うことで虎鉄はここをちゃっかりかりうけることができる。 手慣れた様子で鍵を開けて中に入り込む虎鉄に続いて脱衣所に進むが、なんだか今日は妙にドキドキする。  風呂の面積を広めにとったせいで、窮屈な脱衣所。千雪の胸の鼓動がバレるのではないかというほど、身体がふれあいそうな距離で服を脱ぎ、虎徹の鎧を着こんだように筋肉質で広い背中が先に浴室に消えていくのを見守ってから、大きく深呼吸をした。 「よしっ」 体を洗う手ぬぐいを握りしめたまま、わざとのしのしと前も隠さず千雪は奥に進むと、小さな檜の椅子に虎鉄と並んで座る。そしておもむろに、間に一つきりしかついていない蛇口から桧のおけに水を張って頭から被った。 「冷てぇ! 」 「ひゃあ、ほんと冷たい」  隣で飛んできた飛沫をもろに浴びた虎鉄が大きな身体を揺らして珍しく喚いているのがしてやったりと少し爽快だ。 「千雪、なにやってんだよ。風邪ひくぞ」 今度はすかさず虎鉄に頭からお湯を被せられて、なんとなく面白くない気持ちになった千雪はまたむくれながらシャワーをグイッと押しやった。

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