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③「黒川くんが諦めなければ、大丈夫だと思うの」
焔が甲斐を避け始めてから一週間が過ぎた。その間にも星野光は毎日「はやく元に戻して」と怒って噛み付いてきたが、曖昧に頷いて誤魔化した。
それまでのデレ全開だった焔ももちろんちゃんとカッコよかったのだけど、この憂いを帯びている焔もカッコよかった。なので避けられ続けながらも写真だけはこっそり撮った。
推しに冷たくされるのもある意味ご褒美だ。そもそも最初はそれを覚悟してブラックナイトになったのだから。その瞬間がやっと来ただけなのだから。
だけど、どうしてか胸が痛む。
……ご褒美、なんだけどなあ。
「黒川くん。これがどういうことかわかってる?あれから一週間経つの。このままだと48話が終わって49話になるのよ?」
昼休み、教室に乗り込んできた星野光に首根っこを掴まれて、屋上に引きずってこられた。
48話が終わり、49話になる。つまりそれはブラックナイトの最期を意味している。甲斐の最期も。
「……何とかするって」
「嘘。黒川くん全然何とかしようとしてないでしょ。このままあの49話にするつもりなんでしょ」
49話は、ブラックナイトがフレイムに倒される。フレイムは親友の死を乗り越えて更に強くなる。
「推しに倒されるなら本望って言いたいのかもしれないけど、その推しの気持ちも考えたらどうなの。黒川甲斐は勝手なの。勝手に正岡焔に正体を見せて、傷付けて、戦いたくないって思った正岡焔に自分を倒させて、正岡焔の心の傷になる。そんなの本当にフレイムのためなの?ちゃんと正岡くんの気持ちも考えて」
「いや、あの、星野49話絶賛してなかったけ?」
「ドラマと現実は別なの!!それに私はハピエン至上主義なの!!」
ぎゃあぎゃあと叫ぶ星野光はキャラ崩壊もいい所だ。大人しいフレイムのヒロインとは真逆。
そんな星野が叫びながら、その大きな目からポロリと涙を零した。
「ほ、星野……?」
「ちゃんと、正岡くんや私の気持ちも考えてよ…………黒川くんが死んだら嫌だよ」
泣きじゃくる星野に、一体どうしたらいいのかと狼狽える。とりあえず持っていたティッシュで鼻をかませようとすると、デリカシーがないと怒られた。
「……あのね、黒川くんが諦めなければ、大丈夫だと思うの」
星野の言葉が、胸に響く。
……すっかりシナリオ通りに戻りかけたこの世界は、まだ、甲斐の世界なのだろうか。
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