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第一章:夢の畔に、漂う君の残り香
ー魔界・第一圈・フリア邸・リビング
暗闇の中に見える月の光が、照らすのは、魔界王族『フリア』が、所属する第一圈『洗脳をされない者』またの名を『リボン』と、呼ばれている場所。
そんな、静寂の場所に、月の光を浴びながらピアノの曲が、流れてくる。闇夜に、浮かぶ月に相応しく、弾いている曲は、ドビッシュの『月の光』だろうか。
奏でられる曲は、其処に、楽譜を作り、音律を並べていく。
これは『フリア』特徴の特殊能力と言える。
リビング全体に、光が当てられると、現れる顔。
其処には、銀色の髪に近い色をした美男性が。
ピアノを…。
弾いていた。
細く、長い指は、鍵盤を弾く。
静寂な場所に、流れるメロディーが、魅せる世界。
それは、この世でも、此処だけにしか無い花の様だ。
『ー…昔々、この世界を納める王が、居ました。王は、七人存在しましたが、いつの間にか、五人となってしまいました。唯一、有名なのは『ブルブェニ』と『フリア』。そう、此処には、沢山の歴史が詰まる想い入れがある』
開かれようとしている。
“フリア”の歴史が。
小さな、小さな宝石を埋め込む様に、この曲にも、沢山の想いを乗せてみよう。
突如、指の動きが変わり、ピアニッシモが、強くなる音色になった。
『月の光』の醍醐味といえる力強い感じが、辺りに、響き渡る。
これに乗せて、音符が、楽譜に飛んでいく。
ー…これが、集中した時の僕。
流れるメロディーに乗せて…。
楽譜を、作り上げていく。
嘗ての作曲家も、こんな感じだったのだろうか。
音に、体を預けて、広げられていく世界は、壮大なオーケストラホール。
青年は、閉じていた瞳を、開いた。
曲が終わった後の空虚感を、味わいながら、彼は、息を吐いた。
これから、起きるであろう前兆とも言える何かが、鳴り始めているのは確かだ。
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