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第5話
「外は随分暑かっただろう。若那もすまなかったな。随分と若宮につき合わせてしまった」
「いえ、とんでもございません東宮妃様」
まだ若いながらに美しい所作で頭を下げた若那は流石内裏に仕える女房といったところか。しかしそんな有能な女房でも暑いものは暑いだろう。若宮もこのままというわけにはいかない。次々と浮かぶ若宮の汗を拭ってやりながら、幸永は傍に控える女房に視線を向けた。
「和沙、若宮に新しい衣を。それから削り氷を用意してやってくれ。若那の分も」
室内で大人しくしているならまだしも、外の暑さをため込んだ身体を冷ますには削り氷を口に含んで体内から冷やすのが一番だ。蜜をかけて食べる削り氷の名に、先日初めて食べた若宮は瞳を輝かせ、若那は恐縮したように頭を垂れた。
「そんな、私にまでとはもったいのうございます」
氷室に納められている氷は大変貴重だ。普段の幸永であれば昔の思考が抜けず氷をむやみやたらと使うなど決してしないが、今は身体が大切だ。氷を惜しんで命を落としたなどとあっては後悔してもしきれない。使う必要のない時に贅沢をするものではないが、必要な時は迷わず使うべきだ。そう判断し和沙に視線を向ければ、清史が信頼し幸永につけた女房の和沙はにこやかに微笑みながらひとつ頷いた。
「すぐにご用意いたしましょう。若那も、東宮妃様のご厚意ゆえ、ありがたく頂きなさい」
和沙の言葉に、女房として彼女に鍛えられた若那は安心したようにひとつ頷き、再び幸永に深く頭を垂れた。
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