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第6話
若那も汗で衣が濡れていては気持ち悪いだろうからと、必要であれば着替えてきて良いと許可を出し、幸永は手ずから若宮の衣を脱がせていく。その理由が何であれ母が構ってくれることが嬉しいのか、若宮は終始キャッキャと楽しそうに騒ぎながら衣を脱いでいった。
「ほら、ちゃんと衣を整えないと削り氷は無しになるぞ」
楽しそうにはしゃぐ為、なかなか衣を整えることができない。軽い口調でそんなことを言えば、よほど削り氷が楽しみなのだろうか、先程までバタバタと意味なく手足を動かし身を躍らせていた若宮はピタリと異常なほど直立に立ち止まり、ジッと幸永を見つめた。そんな子供らしくわかりやすい姿にクスリと笑いを零しながらも、手早く衣を整えていく。
「宮様、お持ちいたしましたよ」
和沙の声にパァッと若宮が顔を輝かせる。そんな若宮の髪をそっと撫でた。
「ちゃんと座って。さぁ、お行儀よくな」
いいよ、と促せば若宮は幸永の傍でチョコンと座って和沙に小さな両手を伸ばした。そんな可愛らしい姿に和沙も思わず笑みを零し、恭しく削り氷の盛られた器を差し出した。零して衣を汚さぬよう麻布を若宮の襟に差し込む。
小さな口で削り氷を頬張り、その冷たさにギュッと目を瞑る若宮を微笑ましく見守っていれば、幸永の耳に衣擦れの音が届いた。雅やかな音ではあるが、女人が纏う袿の音ではない。その音が何であるかを悟り幸永が顔を上げた時、ふわりと甘い香りを纏ったその人が室内に入ってきた。
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