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第8話

「ちょっと寝て、起きたらまた遊んだら良い。眠たいままで遊んでも面白くないぞ」  ポン、ポン、と優しく揺れながら軽く背を撫で続ければ、次第に若宮の頭はガクガクと大きく揺れ動き、そしてとうとう幸永の胸元に顔を埋めるようにしてすぅすぅと寝息を零し始めた。清史の手を借りて若宮を抱いたまま立ち上がり、幸永がいつも眠っている御帳の中にゆっくりと横たえる。身体を離してもグッスリと眠っている姿に小さく笑みを浮かべて、幸永は清史の隣に戻った。茶を用意していた和沙が清史と幸永の前に茶と菓子を置いて静かに下がっていく。その姿が見えなくなってから、幸永は未だ優しく笑みを浮かべている清史に視線を向けた。 「何かあったのか?」  随分荒れているようだ、と言えば清史は一瞬驚きに目を見開いたが、すぐに苦笑した。 「流石は幸永だな。見抜かれていたのか」  清史としては、完全に隠しているつもりだった。事実、若宮はもちろん和沙たちも気づいてはいなかっただろう。彼は東宮なのだ。御簾で顔を晒すことがあまり無いとはいえ、そうそう機嫌を悟られては務まらない。だが幸永は彼の妻でもあり、長年の友でもある。清史の素顔にずっと触れてきた者としては、違和感を覚えずにはいられなかった。  幸永が気づいているとわかって、清史はさてどうしようかと脇息に持たれながらパチン、パチンと手にした蝙蝠を弄っている。よほど話したくないことなのだろうか。だとするならば無理に聞くのも悪いだろうかと幸永が口を開こうとした時、清史の持つ蝙蝠がパチンッとひときわ大きく音を立てた。

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