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第9話
「この頃、とみに大臣たちがうるさくてな。父上がお歳を理由に新たな女御をお迎えになる気が無いとわかるや、矛先が私に向いてしまった。断っても断っても、せめて更衣の位でも良いからと引き下がらないのには、流石に疲れてしまった」
言い終わるや否や、深くため息をついた清史に、幸永はなるほど、と胸の内で納得した。
清史の父である今上帝は確かにもう若くなく、子供を授かる可能性も低く、仮に授かったとしても文武に優れ非の打ちどころがないように思える清史を退けることなど不可能に近い。さらに内裏の奥向きは今上帝の正妻であり清史の母である弘徽殿の中宮が君臨しており、付け入る隙などありはしない。ならば次代ではあるものの未だ妻と子が一人ずつしかいない清史に狙いを定めるのも自然な流れというものだろう。特に、幸永は左大臣の養子としてこの内裏に来たものの、本来の身分など決して高いものではない。御そうと思えば御せる。そう判断されたとでもいうところだろう。〝せめて更衣の位でも良い〟という発言がすべてを物語っている。
更衣は身分こそ低いものの今上帝や清史に衣を渡し着付ける役目であるのだから当然接触の機会は多く、閨に侍ることも許される身分なのだから。
「どんな女御も更衣もいらないというのに」
そう言って清史は脇息から身体を起こし、幸永に腕を伸ばしてその身を己の膝の上に抱き上げた。決して離すまいというかのように強く強く抱きしめる。
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