11 / 17

第11話

「確かに、僅かも嫉妬しないかと言われれば、わからないと言うしかない。清史が俺以外を抱くとなれば悋気も覚えるだろう。だけど、ここは内裏なんだ。ここにいる以上、この場所が国を動かす以上、見習うべきは弘徽殿の中宮様であって、俺の感情ではないと思う」  清史の母、弘徽殿の中宮も一人の女性だ。感情があり、帝への情もある。だがこの内裏には多くの女御更衣が住まい、帝の愛を得ている。中には野心を抱く者もいるであろうに、中宮は決して己の弱さや醜さを見せたりはせず、堂々とこの奥を取り仕切っている。だからこそ帝は中宮を信頼し、愛し続けるのだろう。  この世は一夫多妻だ。身分が高くなればなるほど、多くの妻を娶る必要が出てくる。ならば、東宮など今更語る必要もない。 「だが幸永ッ――」 「もしも、もしも清史が東宮じゃなかったら、もしも二人で位の低い次男や三男であったら、いや、貴族でさえなく庶民であったなら、互いだけを見つめて、互いだけを愛して、互いだけを腕に抱くことも、あるいは出来たのかもしれない。でも、こんなのは所詮〝もしも〟の空想でしかない」  清史の言葉を遮るように、幸永は二人が互いだけを想っていればすべて完結される空想を口にした。位がなかったら、その肩に国という自分だけでは完結しない大きな大きなモノを背負っていなければ、何の責任もない存在であれたなら、あるいはそんな自由も許されたのかもしれない。けれど――。

ともだちにシェアしよう!