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第13話
「もちろん。だが、そんな心配など無用だろう。幸永が嫉妬などする隙も暇も与えぬのが私の務めだ。この目には幸永しか映りはしないのだと、幸永自身に証明しよう」
そっと頬を撫でられ、その低い声と相まってカッと幸永の頬が赤く染まる。だがそんな己を見られるのが恥ずかしくて、幸永はついついどこか睨むように清史を見つめ、口端を挑発するように釣り上げた。
「随分な自信だな。なら、東宮様のお手並み拝見といこうか?」
言葉だけを見れば随分と余裕を見せている幸永であるが、実際はそうでないことなど清史にはお見通しだ。ずっと、それこそ幼少の頃よりずっと幸永だけを見つめ続けてきたのだ。些細な変化さえ見逃さないのだから、こんなわかりやすい強がりを見抜けないはずもない。だが、それを指摘して揶揄うのも野暮というものだろう。
「つれないな、幸永は。東宮などではなく、どうか名を。その声で、その唇で、私の名を呼んで。幸永の前に立つ私はいつだって東宮という虚像ではなく、私自身であるのだから」
文武に優れ、優しく思いやりのある欠点など見当たらない聖君。だが幸永の前ではそんな仮面など剥がれ落ち、欲と執着にまみれたただの人間が存在する。そんな自分が、存外清史は嫌いではなかった。
さぁ、呼んで。そう乞い願う清史の温かな指に下唇を撫でられて、幸永の背に甘い痺れが走る。
「きよふみ……」
吐息交じりにそう呼ばれて、清史の心は歓喜に震える。自然と口元に笑みが零れ落ちた。
「もう一度」
お願い、と掻き抱けば幸永の背が僅かに仰け反る。
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