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第15話

「んっ……」  羽のように軽く柔らかな口づけがくすぐったくて、幸永の唇から甘い吐息が零される。まだ日も高いというのに自らが零した吐息の淫らさが恥ずかしくて、顔を真っ赤にしながら顔を背ける。だがそんな可愛らしい仕草では余計に清史の欲を刺激するだけだ。しかしどれほど身体を重ねようと、未だそのことに幸永は気づいていないらしい。清史はそれらすべてをわかっていながら、あえて何も言わずに幸永の全身を可愛がる。まるで触れたことのない場所など存在しないというかのように。 「幸永……」  ふわりと、侍従の香りが広がる。同じ香りを纏っているはずであるのに、清史から薫る侍従は殊更甘く感じるのは何故だろう。そんなことをボンヤリと考えていた幸永は突然ハッとして、己の胸元に口づけを降らせている清史を押し戻そうと肩を掴み、身を捩った。 「まッ、待って清史ッ! ここじゃ駄目だっ。若宮が起きてきたらッ――」  まだ幼子だから両親が何をしているかなど理解できないであろうが、だからと言って見せて良いものではない。幸永の焦った声にそれもそうかと思い直した清史は軽く幸永の衣を整えて袴の紐を結ぶと、軽々とした動作で幸永を抱き上げた。 「ならば、部屋を移そう」  唇にひとつ、口づけを落として、清史は幸永を抱き上げたままスタスタと歩いて行く。途中で和沙に若宮の傍にいるよう命じてから、清史は己の住居である梨壷へ向かった。幸永が内裏に来てからほとんど使われることのない梨壷は、しかし女房達が清掃を欠かさないため綺麗に整えられている。奥にある紫の御帳に入り、ゆっくりと覆いかぶさるようにして幸永をそこに横たえた。 「ここならば良いだろう?」  若宮が来ることはもちろん、女房達の目もない。どれほど乱れようとも知るのは互いだけだ。そのことにカッと幸永は顔を真っ赤にしたが、幸永とて好きな相手を前に、身体が燻ぶったままなのは辛い。しかしそれをすんなりと認めてしまうのも恥ずかしくて、幸永は無言で清史に手を伸ばし抱き着いた。彼の胸に顔を埋め隠しながら、コクンとひとつ頷く。そんな彼に清史は笑みを深めて、もう一度シュルリと袴の紐を解いた。

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