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2章(3)

 義務教育の最終年の春に判明する、第二性別判定結果。  あれは、それまでの努力がすべてが無駄だったと諦めるのに十分な衝撃だった。  多忙で家庭を顧みない父、自分に冷たい母、無関心な兄……。そんな西家の人たちの中で、どうやったら以前のように西家の子供として褒められて、平和な生活を送れるようになるのか。  小学校を卒業し中学生になった頃の尚紀は懸命に考えていた。  瑞江にやさしく笑いかけてもらうには、どうしたらいいのか。  そんな時、尚紀は妙案を思いついた。  西家の人々は皆同じ仕事だ。自分も同じ職業を目指せば認めてもらえるかもしれない、と。  尚紀は中学時代を懸命に勉強した。母や兄と同じ弁護士になる。  調べてみたら容易なことではないらしく、そのためには司法試験に合格しなければならないし、それ以前に大学の法学部と法科大学院を修了しないとならないらしい。  道のりが遠い……と思ったが、何より勉強は大事なのだ、と尚紀は悟った。 「僕はお母さんやお兄ちゃんと同じ弁護士になりたい」  突然そのように言い出した息子を、父親はどう思ったのか。尚紀にはわからなかったが、それでも嬉しそうに笑顔で、じゃ勉強を頑張らないとな、と頭を撫でながら言われて、大きく頷いた。  将来の職業なんてこれまで具体的に考えたこともなかったのに、尚紀の心の中にはいつの間にか弁護士になるという目標が芽生えていた。    西家の両親から第二の性について、尚紀に対して具体的に何かを語られたことはなかったが、「アルファであってほしい」という期待を、ひしひしと感じてはいた。  中学校では努力を怠らなかった。  しかし、必死に努力をしても学校の成績はなかなか結果に結びつかず、また背も伸びない。  次第に焦っていった。成績は振るわず、だけど何も言わない両親から、「アルファであってほしいが、残念ながら可能性は低そう」と失望されているような気がしていた。  そんな中判明したのが、中三の春に強制的に知らされる第二性別判定結果。「オメガ」という第二の性だった。  両親が露骨に落胆しているのを、尚紀は感じ取った。なにしろオメガでは、世間体もあるし、色々と負担も大きいらしい。  両親は、西家の次男は残念ながらアルファではなかったものの、アルファ並の優秀なベータである、という展開を期待していたのだろうと察した。  尚紀は、両親の期待に応えられなかった自分に落胆した。    オメガとわかって、両親との溝は深くなった。  弁護士になりたいと夢を語り、嬉しそうな表情を見せていた父からは、オメガでは司法試験をパスして法曹界に身を投じることはもちろん、そもそも大学に行くことも難しいかもしれないと言われた。  オメガだからといって完全に道が閉されたわけではないが、お前には能力的にそれを期待できない、と先に失望された。  母親の瑞江は、元々きつい性格だったがオメガとわかると露骨に態度が変わった。 「オメガなんかをあなたは自分の息子にしたのよ、わかってるの」  瑞江が自分の夫にそう愚痴をこぼしているのを、尚紀が耳にしたのは一度や二度ではなかった。  彼らにとって、尚紀が西家の次男である最低限の条件は、「オメガ以外」であることだったのかもしれない。  なんかもう疲れたなと、尚紀もそう思いはじめていた。  十七歳。  足らない単位は進級後の課題とレポートの提出という、ほとんどお情けでようやく最終学年に進級できたものの、すっかり学校に足が向かなくなってしまった春。  尚紀は、人生が大きく変化する出来事に遭遇することになった。

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